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原発問題とは、エネルギー問題だけを意味しない

勝田 忠広 勝田 忠広 明治大学 法学部 教授

原発11基が廃炉になった理由

 私は、個人的には原子力発電に否定的です。一方で、政府の機関である原子力規制委員会の審査会の委員や検討チームメンバーをしています。この原子力規制委員会は、原発再稼働を前提に稼働の条件を立てているところ、とみなされがちです。確かに、ここでは原発はいらないという議論はありません。

 それでは、私は矛盾していると思われるかもしれません。

 しかし、原発再稼働にあたって、原子力規制委員会は相当に厳しい再稼働のための基準を設けているのが事実です。その結果、2022年2月現在、再稼働した原子炉は10基ありますが、基準を満たすことを諦めて廃炉になったものは11基に達しています。

 つまり、原発反対を感情的に訴えるのではなく、稼働させるのであれば、これだけの条件や対策が必要ということを、冷静に、科学的に割り出し、それを原子力発電所側に求めたところ、おそらく、彼らも、その条件をクリアするためにかかる費用と収益を分析し、採算に合わないと判断して廃炉の決断に繋がったのだと思います。

 もちろん、このやり方がベストであるとは言いません。無条件に原発に反対する人たちには、まどろっこしいやり方と見えるでしょう。また、条件をクリアし、再稼働することになった原発もあります。

 しかし、原発を推進する側にも、彼らなりの意見があります。それぞれの意見を交えて、落としどころを見つけていくことは、原発の是非を問うひとつの方法ではあると思います。

 むしろ、こうした過程にあって私が気になるのは、この廃炉の判断が経済的採算性であることです。

 つまり、福島での事故の経験を重視し、自然災害のリスクが計り知れない日本において技術的知見の限界を知り、命をあずかる責任を終えないことから廃炉を選んだのではありません。

 もし本当に原発が必要なのであれば、どれだけ費用がかかることになっても、安全対策を講じた上で再稼働を行うという選択肢もあったわけです。しかしながら人命よりも経済性だけで廃炉は決定されました。

 例えばドイツは、倫理的な側面を重視し、単なる再生可能エネルギーへのシフトではなく、困難な道であることを認めつつも原子力を否定する「エネルギー大転換」という政策を選択しています。

 日本では、どの程度、原発について人命よりも経済性を重視して推進しているのか。そのことを、私は、定量的手法である費用便益分析によって科学的に可視化する試みも行っています。

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