
2023.01.27
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
こうした評価のメカニズムがプロジェクトや施策などの推進において有効なのは、なんのために実施するのか、どんな価値を創出するのか、ということを議論・共有する対話のプラットフォームを作りだし、その中でさらに良いやり方や仕組みを発見したり、創発的に戦略を検討したりできるからです。
例えば、いま、私が関わっている評価の仕事のひとつに、子どもの貧困問題に取り組む地域の事業があります。
その問題解決のために多くの組織や人々が関わり、様々な活動が行われています。子どもの学習支援をするNPOであったり、子ども食堂を運営する地域の人々であったり、あるいは、様々な活動にボランティアで参加する高校生や大学生もいます。当然、行政も関わります。
子どもの貧困問題の解決という共通の目標に向かっていますが、活動を実施しているひとりひとりの立場も違えば、視点も異なります。また、現場での経験もひとりひとり異なり、それぞれの実践知になっていきます。それはとても貴重なものですが、多くの場合、暗黙知としてその人だけのスキルになりがちです。
しかし、関係者が集まり、できるだけ客観的なデータも持ち寄りながら対話をする場を設けることによって、様々な立場や視点からの意見が交わされたり、暗黙知が言語化されて可視化されることができます。そこで起きることは、気づきや相互の学び合いです。
さらに、事業の価値創出に向かって、より効果的なやり方や仕組みを新たに取り入れたり、実践方法を軌道修正したりすることもできるのです。こうした活動全体がevaluationです。
近年では、こうした評価の手法は企業活動にも取り入れられてきています。「社会的インパクト評価(social impact evaluation)」と呼ばれるアプローチは、社会的インパクト投資やESG投資の成果を評価する方法として注目されています。
90年代以降、世界中で、「グローバル・イシュー」といわれる環境問題、格差の拡大や貧困問題など、新自由主義によるグローバル資本主義の弊害といえる問題が広がっています。こうした地球的課題に対して、企業は果たすべき責任があるという考え方がCSRと呼ばれる企業活動に繋がっていきました。
そして、その後SDGs等の動きとともに、機関投資家の活動にも及び、社会課題の解決に直接取り組む企業に対する社会的インパクト投資や、社会問題や環境問題に配慮する企業に対するESG投資の拡大に繋がっています。
その背景には従来の株主資本主義からステークホルダー資本主義という価値の転換があります。またそれは、グローバル・イシューを抱えたままの社会においては企業自身の持続性も見込めないという危機感の反映とみることもできます。
ステークホルダー資本主義は、文字通り投資家だけでなく、その企業に関係するステークホルダーみんなが納得する、つまり、「相互に利益を受ける」という経済の考え方です。
そこで問題となるのは、これまで投資のリスクと経済的リターンの評価が中心であった投資活動において、社会課題の解決に資する社会的リターンをどのように把握するのかということでした。
社会的インパクト評価とは、事業の社会的な価値の「可視化」を図り、検証し、企業自らの学びや改善、投資家等資金提供者などのステークホルダーへの説明責任につなげていく評価です。そうしたステークホルダーみんなが納得するビジネスモデルを創出していくには、エビデンスとともに対話をとおした合意形成を生み出す協働型評価が効果的です。
そして、自分たちはなんのために、どんな社会的な価値を創出するために企業活動を行っているのか、そのことを関係者と共有し、その実践においても対話を重ね、常にアップデートしていくことが必要になってきます。それは、まさに、評価の活動なのです。