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国民一人ひとりが税制度の基本を理解することが大切

 多くの人は、自分の納税額が増えたり減ったりすることは気になると思います。しかし、自分の収入がどういう基準によって何の所得に分類されるべきかということ自体には、あまり関心がないかもしれません。

 そのため、所得分類が誤っていると指摘され納税額が増えた場合は、税務当局は納税額を増やしたくて分類を変えるのだと思ってしまうかもしれません。でも、それは違います。

 税務当局は収入の性質に応じて、ルールに則って分類を行っているだけです。そしてそれは、納税者間の公平感を保つためなのです。

 しかし、最初に述べたように、社会の変化によって、従来のルールが実態と合わなくなることがあります。そのため、税制や税務行政においてはそうした変化を察知し適切なタイミングで対応することが求められます。

 実は、日本では、税務署による税務調査は、個人事業主に対しては全体の1%、法人でも3%程度です。しかし、税務署が申告内容をチェックする方法は、税務調査だけではありません。したがって、様々な方法によって申告誤りは是正される仕組みが用意されています。しかし、ベースにあるのは、当事者の申告は正しいものとして一旦はそのまま受け入れるという考えです。

 そのため、国全体として、申告誤りを直すコストを押さえつつ、適正な納税を確保するには、税制度の公平感が必須です。なぜなら、公平感を抱けないルールの下では、ルール違反者が多く出ると見込まれるからです。

 つまり、税制や税務行政が社会の変化に対応しきれず、それによって公平感が崩れると、それが基で税の仕組みが崩れることにもなりかねません。そのため、課税ルールや判断基準は常に点検が必要です。

 また、納税者目線からは、納税額が少ない方がうれしいという気持ちは理解できます。でも、最初に述べたように、税金は通常の買い物の代金とはちょっと違います。日本という社会に暮らす会費みたいなもので、その額を決めるに当たっては、人々の公平感を保つために、担税力に見合った応能負担という考え方が取り入れられています。

 折しも11月11日からは『税を考える週間』が始まります。この機に税のそもそもの考え方に思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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