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社会の変化に対して求められる新たな基準

 所得には、それを得た原因や性質に応じて10種類の分類があり、それぞれ計算の仕方が異なります。

 その分類の中に、事業所得と給与所得があります。簡単に言うと、事業所得は収入を得るためにかかった経費が所得控除の対象となるのに対し、給与所得では、一定額が概算経費として所得から控除され、例外を除き基本的には実額での経費は認められていません。

 これは、先に述べたように、同じように収入を得ていたとしても、その性質が異なると考えるからです。

 すなわち、給与所得者は、雇い主の言うことに従って責任を果たすとか、組織のルールに則って行動するなどの制約や苦労はありますが、それを果たしていれば、給与というかたちで安定的に収入を得ることが一応約束されています。

 一方、事業所得者は、必ずしも安定的な収入が保証されているわけではありません。収入を得るために何にいくら使うかについては、様々な経営判断を行い自分の責任で考えることが基本です。

 そこで、所得の計算の仕方が異なる区分けをつくり、従来から、会社などの組織に対する従属性や独立性などの有無を基準として、事業所得と給与所得のどちらに区分するか判断することとされてきました。

 ところが、近年では、例えば、会社に所属しているものの、報酬は完全歩合制で経費も自己負担などという働き方が出てきています。つまり、能力給のような働き方だと、従属性や独立性などのような従来の判断基準では分類が難しい場合も増えているのです。

 すると、例えば、従属性というのはあまり重きを置いて判断しなくてもいいのではないかとか、本人がどう思って働いているか、雇い主はどう思って雇っているのかなども考慮しないといけないのではないかなど、様々な考えが出てきます。この辺の判断基準をどうするかについては、早急に対応が必要な課題であると思います。

 また、裁判になり、マスコミなどにも大きく取り上げられて話題になった、競馬の当たり馬券による所得問題も新しく生まれた問題です。

 そもそも、競馬はなかなか当たらないものです。実際、的中率は極めて低いのです。ギャンブルとはそういうもので、いわば、当たることを夢見て、それを楽しむために馬券を買っているわけです。

 そのため、当たって得た収入は、一時所得という分類になり、当たり馬券の購入費が経費として認められています。

 ところが、コンピュータが発達したことにより、それを駆使すれば的中率を高めることができるようになってきたのです。過日、裁判を起こした人も、数年間で数億円に達するほどの馬券を買っていたものの、的中率を高め、馬券代を上回る払い戻しを受けていたのです。

 その収入を、従来のように一時所得と判断すれば、経費は当たり馬券の購入費だけとなるので、収入から引ける金額は非常に少なくなり、課税対象となる金額は莫大になります。

 しかし、その人は、コンピュータを駆使して膨大な数のレースにかけ金を投じ、しかも平均をはるかに上回る的中率を実現していたわけです。つまり、ギャンブルとして楽しむのではなく、競馬という仕組みを使って収入を得ることを目的に取り組んでいたので、そこで得た収入は一時所得ではなく、雑所得になると主張したのです。

 雑所得になると、それを得るためにかかった様々な費用が経費として認められます。すなわち、当選したレース以外のハズレ馬券の購入費も、的中させるための経費として認められ、課税対象額は大きく下がることになるのです。

 このケースでは裁判所はこの人の主張を認め、所得は雑所得になると判断しました。

 税務当局は、この判決に驚いたと思います。ギャンブルによる収入は一時所得に分類することが常識だったからです。

 しかし、コンピュータという技術が発達したことによって、従来のルールを一律に適用することはできなくなったのです。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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