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パンデミックを人類史と政治から見ると、見えてくるのは…

重田 園江 重田 園江 明治大学 政治経済学部教授

パンデミックを機に考えてみるべきこと

 日本は、世界でも、政治不信の強い国です。その理由は様々だと思いますが、その根底に、どんなことでも、国のやることはとにかく嫌だ、という考えがあるように思われます。

 先に述べたように、民主主義は多様性に結びつくので、各人が自分の意見をもち、それぞれに考えるべきです。ただ逆に、ポーズとしての政府批判によって、思考がそれ以上先に進めなくなってしまっては、本末顛倒です。

 実は、パンデミックや戦争のような非常事態に対応するには、国による管理や規制が非常に有効です。

 実際、歴史を振り返ると、16世紀に「国家」が作られはじめて以来、パンデミックや戦争をきっかけとして、国が強制力を高めることは度々ありました。日本も、第二次世界大戦でそれを経験しています。そのため現在では、政府の統制に対して余計に不信が募るのかもしれません。

 しかし、政府批判の声をよく聞くわりには、内閣支持率はそれほど低くなりません。それは、批判する人は声を出し、支持者は黙っているからかもしれません。

 実際、ネットなどには政府批判が溢れていますが、その内容をよく見ると、場当たり的で、深く考えているようには思えないものも多いのです。

 ネットでは、熟考することよりもスピードに価値が置かれているため、誰にでもわかるようなことをいち早く言おうとすると、場当たり的な批判になるのかもしれません。でも、それでは議論は深まりません。

 ここでよく考えるべきなのは、国家に何を期待し、どのような役割を求めるかです。国は国民に対して強制力を発揮できる一方、例えば、貪欲な自由市場の防波堤ともなり得るのです。

 実際、巨大プラットフォーマーの活動をデジタル課税などによって規制しようとしているのは国際機関ではなく、各国政府です。自国の農業を守れるのも国の政策なのです。

 日本国民は日本の主権者ですが、主権者というのは抽象的で、何のことかよく分からないかもしれません。そこで視点を変えてみて、国民であることは被治者でもあると考えてみたらどうでしょう。

 ひとりひとりが意見をもち、議論を深めるときに必要なのは、被治者の視点をもつことだと思います。「自分はどう統治されたいか、されたくないか」という発想で、政治や政策を見ていくということです。すると、国を防波堤として稼働させる発想も生まれてくるのです。

 その発想は、自分が住む国や社会をどうしていきたいのか、どういう形にしていくべきなのか、に繋がっていきます。

 民主主義と自由市場の関係、自由と管理や規制の関係、その落としどころに絶対の解はありません。私たちがどんな選択をするのか、間違ったと思えばどんなふうに改めるのか、それが暫定的な正解になるのです。

 パンデミックをきっかけに、その発生の背景にあるもの、それが私たちの生活にどんな影響を及ぼしているのか、それを考えることは、思った以上に有意義なことではないかと考えます。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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