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パンデミックを人類史と政治から見ると、見えてくるのは…

重田 園江 重田 園江 明治大学 政治経済学部教授

自由と管理を考える

 では、人々が自由と民主主義を選択する以上、こうした状況は避けられないのでしょうか。それを考えるためには、まず、自由市場と民主主義を分けるべきです。

 自由市場は単一性や規模の拡大に結びついていきます。それによる利益の方が、多様性や小規模よりも大きいからです。

 一方、民主主義は多様性に結びつくものです。人は、ひとりひとり、考え方も、価値観も、行動も異なるからです。すなわち、民主主義とは、なんでも入る容器のようなもので、人びとの多様性が確保されていなくては民主主義とは言えません。

 ところが、自由市場の原理は競争力です。そこで勝つものに価値があるのです。

 すると、本来、民主主義と自由市場の間でせめぎ合い、あるいは、トレードオフのようなことが起こるわけです。その落としどころをどこにするのか、それを私たちは考えなくてはならないのです。

 例えば、世界の人口の増加を考えれば、効率的に食料生産することは必要です。では、それによって、新たなパンデミックが起こるリスクを受け入れなくてはならないのか。

 あるいは、なんらかの技術の進歩によって、解決策を見つけていくこともできるかもしれません。

 しかし、その技術もまた、新しい問題を生み出すことになるでしょう。先ほど挙げた変異種の出現や、遺伝子組み換え作物による未知の弊害のほかにも、例えばワクチンなら、副反応や思いもかけない副作用。ゲノム編集による病気の治療なら、生命の尊厳の侵害などです。

 重要なのは、民主主義でありたいと思うのであれば、それによってなにを得て、なにを受け入れなくてはならないのか、あるいは、なにが侵される危険があるのかを考えることです。

 もっと身近なことで言えば、例えば、いま、日本はワクチンの接種が遅れている国です。海外で生産されているワクチンの確保に後れをとったという事情もありますが、接種がスムーズに進まない要因のひとつは、国による国民の情報管理が進んでいないことがあります。

 例えば、マイナンバー制度が活用されていて、年齢別や、既往症の有無別、職業別などの一元管理があれば、ワクチンの接種がもっとスムーズに進められていたかもしれません。

 実際、同じくワクチンの確保が遅れた韓国では、住民登録番号なるものを活用し、二重予約や誤接種を防ぎ、国民のスムーズな接種を進めているとされます。

 では、なぜ日本ではマイナンバーが活用されないのか。それは、マイナンバーによって個人が国に一元管理されることを、国民が拒否してきたからです。それはひとつの選択です。

 もちろん、その選択によって得られるものがある一方、受け入れなければいけないこと、我慢しなければいけないこともあります。

 そのためには、どんなトレードオフが発生するのか、みんなで議論し、落としどころをその都度決めること。これが民主主義にとって重要で、つまり民主主義とは、終わりのない合意と試行錯誤のプロセスだと言えます。

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