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「権利」、「法」、「自由」について、私たちは誤解していないか

森際 康友 森際 康友 明治大学 法学部 特任教授(2021年3月退任)

新型コロナの蔓延を防止するために、個人の自由や権利が様々な形で制限されることが多くなったと言われています。それは、「権利の制約」と説明されます。でも、それは誤解ではないでしょうか。これを機会に、権利と法、それが保障する自由、そして民主主義というものをきちんと理解するようにしましょう。

主権在民とは私たち国民が権力を独占していること

森際 康友 コロナ禍によって、私たちの生活や経済活動は様々な制限を受けるようになりました。ついに、営業の時短命令は営業の自由を保障した憲法に違反するとして、飲食チェーン店のオーナーが東京都に対して訴えを起こしました。

 こうした場合、個人の権利と公共の福祉の衝突と捉え、バランスを考えることが必要、という意見がよく出ます。一見、もっともな意見に聞こえますが、本当にそうでしょうか。こうした意見がもっともに聞こえるのは、民主主義に対する理解にかなり問題があるからではないでしょうか。

 日本が民主主義国家であることは、誰もが知っています。主権在民は憲法の3つの柱の1つと言われます。

 主権とは、権力を一手に独占しているということです。それが民に在る、ということは、国民が権力を独占しているということです。つまり、日本国民である私たちが団体としてすべての権力をもっている、ということです。

 そんなことは知っている、当たり前だと思われるかもしれませんが、でも、普段は、権力は国家にあり、それを役所などが行使している、私たち国民は被支配者にすぎない、と思っていないでしょうか。だから、社会が悪いのは国やお役人のせいであり、私たちはその犠牲者で、私たちに責任はない、と思いがちです。「政府は何やっているんだ!」と。

 なぜ、そのように思うのか。実は、ホモ・サピエンスが誕生して以来約20万年の間、他の霊長類とともに、人類は親分(支配者)と子分(被支配者)の関係による社会を構築してきました。日本で、その仕組みに代わって民主主義が導入されたのは戦後のことですから、20万年と比べると、わずか70年ほどしか経っていないわけです。私たちは、DNAに組み込まれている親分子分関係の仕組みからなかなか抜け出せないでいるのです。

 例えば、いくら憲法で主権在民と謳っていても、やはり、権力をもっているのは親分(国)で、私たち子分(国民)は、親分の言うことに従っていれば、親分の権力によって守ってもらえるし、恩恵も受けられる。少なくとも、国にたてつくとろくなことはない。それが現実であり、その方が社会も安定すると、常識的な大人はついつい考えがちです。

 確かに、自分の都合のいいように、つまり、人は自分の利益を実現するためにしか権力をふるいません。だから、権力者同士が衝突することは多々あります。すると、まるで戦国時代のように国中が大混乱になってしまいかねません。そこで、特に日本人は、和を強調し、権力が実現する権利を引っ込め我慢することが大切だと思い、権利実現に繋がる草の根の政治運動などには関心を持たないわけです。

 これは健全な民主主義と評価すべきでしょうか。主権在民とは、私たち全員が支配者であることを意味するのですから、権力は私たち全員に都合のいいように、つまり、自分たちの利益を実現するためにしか使わないはずです。もし草の根の政治運動が私たち全員の利益を実現するのであれば、それは最大の関心事になるべきです。つまり、私たちは、支配者・権力者の頭で考えるべきなのです。

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