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少子高齢化ではない、少子超高齢に突入した日本社会の危機

加藤 竜太 加藤 竜太 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授

負担と便益という観点から新たな社会制度を考える

 大幅な財政支出カットは、公債に頼るような財政を見直すことにも繋がります。

 そもそも、日本の通常の法律では、国債の発行は認められていません。一方、例外的に建設国債については、それによって整備された社会資本が将来世代にも引き継がれると言う理由から、その建設経費を将来世代にも負担してもらう、という考え方でその発行が例外的に認められています。

 それ以外の国債は、国会で議決された場合にのみ、例外的にある一定期間に限って国が発行できると定められています(いわゆる赤字国債)。増税による財源の確保は国民の理解を得ることが難しい反面、将来に負担を転嫁する国債発行と言う方法で財源を確保するという手段は政治的にも安易に取られがちです。そのような政治的な判断の結果、今の日本は膨大な財政赤字に直面していると言っても良いでしょう。

 我々の研究では、このような膨大な財政赤字を維持したままで将来の経済政策を続けることは不可能であるという結論です。将来世代に膨大な借金を残すことなく、急速に進む超高齢化社会を維持するためにも健全な財政運営が必至です。経済学では社会における個人や企業の行動を費用と便益という視点から捉えます。国債発行による財源調達は世代間の負担と便益に影響を与えます。今を生きる我々世代が、将来世代へ負担のみを先送りする政策を続けることは許されません。

 いまの日本の様々な社会制度の多くは、戦後の高度経済成長の時代に整備されたものです。その時代は、インフラの整備といった公的な援助が進む中、市場メカニズムにもとづいた私的部門の効率性の追求が高い経済成長を実現しました。当時の建設国債の財源で整備されたインフラは世代間の負担の観点からはむしろ正当化されるでしょう。一方、純粋な借金である赤字国債の発行は将来世代への負担の単なる先送りなので、正当化されることはできません。

 ところで、今の日本を取り巻く環境は当時の高度経済成長を遂げたような経済環境ではありません。労働人口の急激な減少が始まり、かつて日本が経験してこなかったような総人口の減少も既に始まっています。さらに、日本をはじめとして経済的な不平等も広がりつつある社会です。アメリカに代表されるような市場経済を重視する社会では、確かに効率的な資源配分が達成されてきたかもしれません。しかし市場メカニズムでは達成できない公平性、すなわち経済的平等はその競争的な環境からむしろ悪化してきていると考えられるようになってきました。社会での格差の拡大です。

 ところで経済学では効率性と公平性は2つの大きな基準として議論され、その達成が大きな目標です。また、市場メカニズムは効率性の達成に大きく貢献すると考えられる一方、市場メカニズムは公平性の改善には全く寄与しないものと考えられてきました。

 しかし最近では、この両者の関係にも注目が集まり始めています。例えば、経済的な格差が拡大すると、少数の高額所得者と大多数の非高額所得者のグループに社会が分断されます。社会における多くの財やサービスはこの大多数の人たちによって消費されますから、経済全体の消費、すなわち需要側の力が落ちてしまい、経済格差の増大が経済にとってマイナスになってしまう可能性が指摘されつつあります。

 総人口の減少を伴った少子超高齢化社会に急速に突入しつつある日本では、先に経験した高度経済成長は今後期待することはできません。そのような中、将来も安定的に経済が成長できるような環境とはどのようなものでしょうか。一人一人が、それも将来にわたって安定的に経済活動ができる環境を構築する必要があります。進みすぎた格差社会は安定的ではありません。

 すでに膨大な財政赤字を抱える危機的な日本の財政状況を正しく理解し、かつ将来に関する正しい情報を皆で共有しなくてはなりません。さらに、そのような正しい情報に基づいて国民一人一人が責任を持って長い時間軸で考えなくてはなりません。まさに今こそ、他人任せになることが一番危険です。今を生きる現役世代の我々だけが次の世代につなぐ社会を作れるのです。将来の日本を生きる世代が納得できる日本の社会を、今こそ皆で真剣に考えるときです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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