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知的財産を侵害する模倣品によって被害を受けるのは?

熊谷 健一 熊谷 健一 明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授

知的財産制度は自国の健全な発展に必要な制度

熊谷 健一 中国は、アメリカを警戒させる技術開発力をもつ一方で、知的財産の模倣品の生産拠点でもあります。近年は、中国政府も知的財産の保護強化に相当力を入れていますが、模倣品の生産拠点を一掃するのは困難なのが現状です。

 中国で作られた模倣品は、ミャンマー等の陸続きの国にも大量に流れ込みます。以前は、ミャンマーに模倣品マーケットは少なかったのですが、経済の発展とともに増えてきています。

 そこで、日本は、JICA(国際協力機構)の法整備プロジェクトの一環として、知的財産法の制定の推進とともに、知的財産の普及啓蒙等の支援も行っています。その際、重要なのは、知的財産制度の本当の意味と、その役割を理解してもらうことです。

 例えば、ただ、模倣品を作ったり売ったりすることはいけないことだと言って、違反者を捕まえるだけでは、その仕事は別の人が引き継ぐだけで、イタチごっこになります。

 そうではなく、知的財産制度とは先進国のためにあるのではなく、途上国にとっても、自分たちの国が健全に発展するために必要なのだ、ということを理解してもらうことが重要なのです。

 日本は、明治の時代にそのことを理解して歩んできました。その背景には、江戸時代から寺子屋や藩校が普及していたこと、明治になって教育制度がさらに充実したことによる教育水準の高さがあったからだと思います。

 ミャンマーにも、仏教を通した教育が普及していて、教育水準は決して低くありません。

 そのうえで、知的財産に対する理解を培っていくことは、日本が130年かけて行ってきたことを、数年で追いつかなければならない困難はありますが、決して無理ではないと思っています。

 近年では、むしろ日本で、デジタル化された様々なコンテンツを侵害する行為が横行しています。そのため、政府は規制の強化を検討しています。

 私たちにとって、法律に縛られ、法律を過度に意識する生活は、決して健全とは言えないかもしれません。本来、法律は空気のようなものであるべきなのです。PM2.5などが取り沙汰され、空気の汚れを意識しなくてはならないときとは、やはり、社会が病んでいるときです。

 では、法律を意識しない生活とはどういうものなのか。良心を持ち、社会で暮らすための常識をもって行動しているときではないでしょうか。私たちは、成長する過程の中で様々な経験を通して、良心や常識を自然と身につけていたのではないでしょうか。

 現代の日本人はそれができなくなり、規範を法律の強化に頼らなければならないのだとしたら、教育や社会のシステムを考え直す必要があるのかもしれません。

 途上国と言われるミャンマーの支援を通して、日本における法のあり方についても考えて生きたいと思っています。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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