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人から、メタボやアレルギー性疾患がなくなる!?

石丸 喜朗 石丸 喜朗 明治大学 農学部 教授

近年、アレルギー性疾患やメタボリックシンドロームは解決すべき重要な社会問題になっています。その治療法として、いま、研究者の間で注目されているのが「刷子細胞」です。まだ、一般にはあまり知られていませんが、その最新の研究が本学で行われています。

3年前に、ようやくその機能がわかってきた刷子細胞

石丸 喜朗 刷子細胞という名前を耳にしたことがある人は、まだ多くないと思います。小腸をはじめ、体内のいろんなところにあると言われる細胞で、60年ほど前に発見されましたが、どんな活動を行っている細胞なのか、まったくわからなかったのです。

 例えば、小腸には、栄養素を吸収する吸収上皮細胞をはじめ、パネート細胞、杯細胞、内分泌細胞という4種類の主要な細胞があります。その小腸の中で、刷子細胞はごくわずかで、全体の0.4%程度です。

 ところが、その0.4%程度の細胞が寄生虫感染のセンサーの役割をしていることが、3年前の2016年にわかってきたのです。

 その仕組みを簡単に説明すると、まず、刷子細胞にはコハク酸の受容体があることがわかりました。寄生虫のひとつである原虫はコハク酸を分泌します。すると、刷子細胞はそれを察知し、IL-25という物質を出します。

 IL-25とは、インターロイキンという免疫担当細胞が産出する生理活性物質のひとつです。これによって、免疫担当細胞の一種であるリンパ球系の細胞(ILC2)が活性化されるのです。

 さらに、このILC2は活性化したことにより、やはりインターロイキンの種類であるIL-13やIL-5を出します。すると、粘液を出して小腸を守る杯細胞や、刷子細胞がさらに増えるのです。

 つまり、またIL-25が増えてILC2が活性化されるという正のフィードバックループが起き、寄生虫である原虫の駆除が促進される仕組みです。

 寄生虫は原虫だけでなく線虫などもいます。また、細菌に対しても、その感染を察知するなんらかの受容体があると思われますが、まだ、わかっていません。しかし、刷子細胞が小腸の免疫機能にたずさわっていることは明らかになったのです。

 では、刷子細胞がない状態だと、どのようなことが起きるのか、という研究を私たちのグループが行ったとき、思わぬ現象が起きました。それが、メタボ対策に繋がる可能性をもっているのです。

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