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明治維新には、多くの“西郷どん”たちの必死の努力の集約がある

落合 弘樹 落合 弘樹 明治大学 文学部 教授

今年は明治維新から150年の節目です。明治維新の英雄、西郷隆盛を主人公にしたNHKの大河ドラマが話題になったりしていますが、実は、戦後歴史学では、明治維新はあまり高く評価されていません。それは、なぜなのか。あらためて、明治維新の特徴を考えてみましょう。

武士の特異性が明治維新を特異にした

落合 弘樹 戦後歴史学では、明治維新は江戸時代の封建制を部分修正したに過ぎない、という評価です。ゆえに、欧米の先進国などに比べると、現代日本にまで非常に古い習慣や制度などを引きずることになった、というのです。

 また、英語でも、明治維新はRevolution(革命)とは言わず、Restoration(復元)と表現されます。まさに、王政復古と捉えられているわけです。

 さらに、イギリスやフランス、ロシアなどの革命に比べ、非常に犠牲が少なかったことも、大きな社会変革ではなかったと見なされる原因かもしれません。

 しかし、明治維新を機に、日本は近代化に向かって歩み始めたのは事実です。すると、明治維新を革命ではなかったとする要因こそが、実は、明治維新を世界的に見ても非常に希有な革命にしている特徴であると見ることもできます。

 例えば、フランス革命では、内乱やその後のナポレオン戦争も含めると、約200万人もの死者を出したといいますが、明治維新では、戊辰戦争を通じて約1万2千人、西南戦争で約1万5千人ほどです。

 もちろん、会津戦争では会津の人たちが非常に大きな犠牲を払っており、それは忘れてはなりません。

 しかし、明治維新全体を通して非常に低いリスクで変革がなされたのは、なぜか。それは、当時の支配階層で特権を有していた武士自身が、自らを解体していったからです。これは、明治維新の大きな特徴といえます。

 その象徴が、徳川政権最後の将軍である慶喜による大政奉還です。日本の王権には、天皇と幕府という二元性があったにせよ、例えば、ルイ王朝が王権を自ら放棄するなどということは考えられません。

 さらに、慶喜は、鳥羽伏見の戦いが始まると自ら撤退し、謹慎してしまいます。もし、慶喜が薩長勢力とあくまで戦う姿勢を見せていたら、戦いは大きな内乱に繋がり、フランス革命並みの犠牲者を出したり、欧米列強の介入を招き、領土の割譲なども起きていたかもしれません。

 実際、幕臣たちは薩長軍を箱根で迎撃する作戦を立てており、それは成功する確率が高かったといわれます。しかし、慶喜はそれをさせませんでした。

 なぜ、当時の特権階級である武士が自らを解体し、変革の主体になり得たのか。ひとつには、もともと戦闘員であった武士が、250年以上も続く江戸期の天下泰平の中で、政治権力を握ることを正当化する論理として、儒教的な倫理を身につけていったことがあります。

 例えば、政治の根底には「わたくしをしない」ということがありますが、こうした精神性の高さと教養を、武士たちは江戸期を通じて浸透させていたのです。

 一方で、勝ち負けに生きる軍人でもある武士には、負けないようにするにはどうするか、というリアリズムや現実的な感性も一貫して継承されていたと思います。

 それは、欧米列強の圧力にどうやって対処するかということに発揮されましたし、なにより、戦争は避けなければいけないという体質が、とくに徳川政権においては濃厚に継承されていたと思います。

 その結果、既得権の解体が低リスクで進行したのであり、それは、明治維新が世界史的にも希有な革命である大きな要因であると思います。

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