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明治維新には、多くの“西郷どん”たちの必死の努力の集約がある

落合 弘樹 落合 弘樹 明治大学 文学部 教授

支配階層にいる武士自身が古い制度を壊す必要があった

 一方、慶喜には、大政奉還しても、自分が新しい政権の中枢にいるという目論見がありました。

 つまり、ペリー来航以来の激動に対応できない徳川政権という老朽化した組織を見限り、新しい時代に対応する組織、それは徳川政権下では政策運営に加わることが許されていなかった雄藩が参加する連合政権で、そこで政治力を発揮しようと考えたのです。

 しかし、慶喜の卓越した政治力を知る西郷や大久保は、それでは本当に新しい政権にはなり得ないと考えます。

 実は、江戸時代の身分制というと、一般には士農工商ばかりを思いがちですが、武家社会の中にも厳然とした身分制がありました。たとえどんなに能力の高い者でも、家の格によって、役割は固定されているのです。

 下級武士では、絶対に家老には就けません。天下泰平が前提の江戸社会では、それが混乱を生まない制度でした。

 しかし、それでは激動の情勢に対応できません。家の格に関係なく、能力のある人材が活躍できたり、多くの人が参加できる組織体制が必要でした。実際、西郷も大久保も薩摩藩の下級藩士です。

 実は、その点、250もの大名が分割して支配していた当時の日本には、全国各地に、実に多様で、非常に優れた人材が多く存在したのです。それは、西郷や大久保、木戸、伊藤など、現代でも知られる英雄ばかりではありません。

 例えば、中島三郎助という幕臣がいます。彼の家は代々、下田で与力を務める家柄で、ペリー来航時、彼は浦賀奉行所与力でした。つまり、最初にペリーに対応することになる役割です。

 彼はペリーの圧力や要求を突っぱねたり、逆に、ペリーに嫌がられるほど、蒸気船の構造や搭載砲を調べたりします。その調査結果を、ときの老中、阿部正弘に提出しています。

 世が泰平ならば、下っ端役人で終わっていたであろう中島も、アメリカの艦隊を率いる将に一歩も引かない人物だったのです。彼は、戊辰戦争が始まると箱館(現函館市)まで従軍し、そこで、壮絶な最期を遂げます。

 中島は幕臣であることに最後まで誇りをもっていましたが、このような高い能力をもった人材は当時の日本各地にいて、彼らにとって、自分の能力を家柄に関係なく発揮するには、古い制度を壊すこと、つまり、支配階層にいる自分たちが、いままで自分たちの母体になっていた組織や制度を壊していく必要があったのです。

 これが、武士が自らを解体し変革の主体となった、もうひとつの理由です。その意味で、西郷や大久保が、元将軍である慶喜が居残ることを恐れ、排除にこだわったのも、慶喜排除をもって身分制のない社会の象徴としたかったからかもしれません。

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