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グロテスクを含み、周囲を侵食する「かわいい」は、日本の美意識の王道

明治大学 文学部 准教授 伊藤 氏貴

日本語の「かわいい」は、いまでは世界で通用する言葉になっています。しかし、女子中高校生を中心に口癖のように発せられる言葉であるためか、「かわいい」はサブカルチャー的に捉えられがちです。ところが、むしろ日本の伝統的な美意識の流れを汲んだものであり、だからこそ世界に普及したといいます。

「かわいい」にはグロテスクが含まれている

伊藤 氏貴 日本語の「かわいい」が世界語になっています。それは、「kawaii」がcuteやprettyとは異なる美意識であることを意味します。では、その美意識は現代の日本の若年層が生んだ独自の文化なのかというと、決してそうではなく、むしろ、伝統的な日本の美意識なのです。

 その特徴は2つあります。ひとつは、比較文学者の四方田犬彦氏が指摘しているように、「かわいい」の中にはグロテスクが含まれていることです。つまり、「かわいい」というものは、たいていバランスが崩れているということです。例えば、多くの人は赤ちゃんを見て、「かわいい」と思います。赤ちゃんは「かわいい」の典型的なもののひとつといえるでしょう。しかし、赤ちゃんのサイズをそのまま大人にすると、体型のバランスは非常に崩れていて、実はグロテスクなのです。「かわいい」といわれるマンガやアニメのキャラクターもそうです。目が非常に大きかったり、2頭身や3頭身であったり、相当にデフォルメされています。それは、バランスや完璧を求める西洋の美意識とは対極にあるものです。実は、このパーフェクトではない、完全ではない、ものを愛でる意識が、日本の美意識の最大の特徴といえるのです。例えば、月見をするとき、日本人は、雲ひとつない夜空に煌々と輝く満月よりも、雲がたなびき月にかかる様子に風流を感じます。桜は満開のときよりも、散り際に風情を感じます。茶道では、いびつな形の茶碗を愛でたり、綺麗過ぎるとわざと割って継いだりします。同じように、バランスが崩れ、完璧なものに比べるとグロテスクでもあるものを「かわいい」と愛でる意識は、まさに日本の伝統的な美意識に則っているといえるわけです。

 実際、現代で言う「かわいい」の意識自体は、すでに平安時代からあります。清少納言は「枕草子」の中で、子どもが大人の大きな服を着て、指が袖からちょっとだけ出ている様子を「うつくし」と言っています。この「うつくし」は、現代で言う「美しい」ではなく、「かわいい」という意識なのです。「うつくし」が「美しい」となったのは、明治時代にbeautifulの訳語に「うつくし」を充てたからです。つまり、現代の女子中高生が袖の長い服を萌え袖と言い、「かわいい」と思う意識は、平安時代の清少納言とまったく同じで、その美意識は、連綿と現代に連なっているのです。

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