明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

振込め詐欺を素材に、刑法による介入の限界を考える

明治大学 法学部 教授 内田 幸隆

いわゆる振込め詐欺を含めた特殊詐欺が後を絶ちません。警察庁の発表では、2016年の被害額は、2014年をピークに減ってきてはいるというものの、406億円(暫定値)に達しています。取り締まりをもっと強化するべきだという声がある一方で、詐欺罪の適用範囲を広げるのは慎重になるべきだという声もあります。

相手方を欺しているだけでは詐欺罪は成立しない

内田 幸隆 一般的な感覚ですと、「詐欺」は文字通り欺くということなので、人をだましたことだけで詐欺罪になると思われがちです。しかし、実は、相手方をだましたことだけでは詐欺罪とはなりません。相手方を欺き、錯誤の状態に陥らせ、それによって財物を交付させたといえて、はじめて詐欺罪が適用されます。ですから、振込め詐欺によってお金をだまし取ること自体は確かに詐欺罪となりますが、振込め詐欺の過程を幅広く検討すると、それぞれの関与者に詐欺罪を実際に問うことができるかについては様々な議論があります。例えば、高齢者の子どもを装って電話をかける人についてはどうでしょうか。電話をかけた人が、初めからお金をだまし取ることを目的とした共謀に加わっていれば、詐欺罪が認められるでしょう。しかし、振込め詐欺は組織化されていて、電話をかける人には、電話をかける役割しか与えられていないケースも想定されます。また、電話役の人を取り調べても、その人が本当に被害にあった高齢者に対して電話をかけていたのか、その人自身もわからないという事例もあるでしょう。そうなると、高齢者の子どもを装って電話をかけただけでは、詐欺罪の適用が難しいケースが生じます。また、受け子といわれる、お金の受け取り役についても同じことがいえます。お金を受取る役割しか与えられていない場合には、詐欺罪の共同正犯に問うことは難しいのではないか、せいぜい詐欺罪の幇助にしかならないのではないかという議論があります。

 また、振込み詐欺に使われる口座を偽名を使って開設し、カードや通帳を銀行から受け取った場合も、銀行側はだまされたとはいえ、具体的な財産的侵害があったわけではないので、詐欺罪に問えないのではないかという疑問があります。また、振込め詐欺で使われた口座が実名でつくられていた場合、そこにだまされた人のお金が振込まれていたとしても、その口座の名義人が自分の口座からお金を引き出すことがなぜ詐欺罪になるのかという問題も起きます。さらに、被害者が自分の口座から指定された口座に振込んだ場合に、詐欺罪の既遂がその時点で認められるのかという議論もあります。預金は現金とは異なり形があるものではないので、詐欺罪の要件である「財物の交付」には当たらないのではないかという点を検討しなければなりません。一般的な感覚では預金も現金と同じだと思われますし、刑法もそのことを前提に預金の振込みを現金の交付と同様に扱ってよいと思うのですが、通帳にいくら100万円と記載されていても、それは紙の上のデータにすぎません。単なるデータのやり取りであって、現金を手にしていないのであれば、詐欺罪の成立を慎重に考える必要があります。

社会・ライフの関連記事

長生きリスクを、長生きハッピーにするために

2020.5.27

長生きリスクを、長生きハッピーにするために

  • 明治大学 商学部 准教授
  • 藤井 陽一朗
自動運転を実用化するのは新しい技術と、私たちがつくる制度

2020.4.15

自動運転を実用化するのは新しい技術と、私たちがつくる制度

  • 明治大学 国際日本学部 専任講師
  • 田中 絵麻
所有者不明土地の解決策はサブスクリプションにある!?

2020.3.25

所有者不明土地の解決策はサブスクリプションにある!?

  • 明治大学 農学部 准教授
  • 片野 洋平
幻想的に光る「夜光雲」が地球温暖化のメカニズムを解く

2020.3.18

幻想的に光る「夜光雲」が地球温暖化のメカニズムを解く

  • 明治大学 理工学部 准教授
  • 鈴木 秀彦
公文書の隠蔽や改ざん、忖度。防ぐのは我々のシビリティ

2020.2.26

公文書の隠蔽や改ざん、忖度。防ぐのは我々のシビリティ

  • 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授
  • 西出 順郎

Meiji.netとは

Meiji.net英語版

特別授業

新着記事

2020.07.08

ブランド価値の向上が日本企業の課題

2020.07.01

「経営を見える化」する力が「ビジネス」を変える

2020.06.24

子どもの権利を見落とす/教師の権利も見落とされる「ブラック」な学校

2020.06.17

インテリジェンス研究:安全と権利自由の「両立」をいかにして実現するか

2020.06.10

書店が本の価格を決めたら、本はもっと売れる!?

人気記事ランキング

1

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

2

2020.07.08

ブランド価値の向上が日本企業の課題

3

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

4

2017.10.18

ゲーテッド・コミュニティの実態に迫り、その“可能性”を探る

5

2017.06.14

現代の経済学では説明できない!? 縄文時代の持続可能性社会

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム