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20世紀の“忘れ物”が21世紀を生きるヒントになる

明治大学 大学院 理工学研究科 建築・都市学専攻総合芸術系准教授 鞍田 崇

いま求められるのは痛みを分かち合う共感

 そんな視点から民藝運動を考えなおし、さらにこれからの社会のあり方を考えるためのキーワードとして、私は、「インティマシー」という視点を提案しています。インティマシーとは、「親近感」とか「親密さ」という意味なのですが、日本語でいうなら「いとおしさ」という言葉が相応しいと思っています。

 いとおしいというと、「かわいい」という意味と思われがちですが、もともとの意味は、「辛い」「苦しい」とか「嫌」、「うとましい」という意味でした。いまは「愛おしい」と「愛」という字を用いますが、万葉集などでは、「愛」ではなく、「労」という字が当てられています。つまり、自分が辛く、苦しく、うっとうしい状況におかれていることが「いとおしい」であり、それがやがて、そういう状況に陥っている他者への同情を表わす言葉となりました。それがさらに進み、大変な状況に陥りやすい弱小な人や物に対する保護的な感情を表わす言葉となり、「愛」を当て、「愛おしい」となったのです。いとおしさは、もちろん愛情を表す言葉です。ですが、もともと「労」を当てられていたころの語感はいまも残っている気がします。一方で、インティマシーで意味されている親密さには、ギュッと抱きしめたくなるような身体的なニュアンスがあります。いとおしさの意味の変遷もふまえつつ考えると、これらの言葉からうかがわれるのは、時として身体的な痛みも伴うような、生きることの切実さへの深い共感ということができるでしょう。こうした感情が抱かれるのは、人だけでなく、物や街や地域社会に対してのこともあるでしょう。いずれの場合も、小ささ、弱さ、果敢なさへの気づきと連動しています。その小ささ、弱さ、果敢なさのゆえの切実さに寄せられる深い共感の醸成こそが、いま求められているのではないでしょうか。

 しいていうなら、インティマシーとは、「痛みを分かち合う」共感。それが、20世紀が置いてきぼりにした無数の小さなものたちに光をあてるとともに、それらの連携の構築や新しいコミュニティの形成に、不可欠なものであると考えます。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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