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児童虐待をなくすには社会全体で育児をサポートすることが必要

加藤 尚子 加藤 尚子 明治大学 文学部 教授

最近、しつけのために山中に置き去りにされた7歳の男の子が行方不明になり、6日後に保護された事件は大きなニュースになりました。このニュースを聞いて、自分もしつけのつもりで虐待をしていないか、悩むお母さんも多いといいます。育児の問題点をあらためて考えてみましょう。

人の人格形成に深く関わるアタッチメント

加藤尚子 親子の関係を考えるために、アタッチメントの理論があります。アタッチメントとは、日本語では愛着と現わされますが、人間だけでなく生物すべてがもっている生物学的メカニズムのことです。生きていく力が弱い個体が、自分より強い大人の個体にくっつくことで守ってもらって生き延びる、生物としての戦略なのです。例えば、赤ちゃんはお腹が空いたり、あるいは一人で寂しくなると泣きます。それは、その赤ちゃんが空腹という身体的な危機状況にあったり、寂しいという心理的な危機状況にあるからです。こうした危機状況とか不安な状況でスタートするのがアタッチメントシステムで、泣くという行為がアタッチメント行動です。すると、赤ちゃんの泣き声を聞いたお母さんなどの養育者は赤ちゃんが危機状況であることを理解し、ミルクを飲ませてくれたり、あやしてくれたりします。養育者が来ること、つまりくっつくことで、赤ちゃんにとっては危機的な状況や不安な状況から、快適な状況や安心できる状況に変わります。そこで、赤ちゃんは養育者に対して信頼感や、安心感をもつようになるのです。このメカニズムが重要なのは、赤ちゃんにとって生き延びる戦略であるとともに、安全な世界を創り出す養育者への信頼感を形成し、お世話される自分がそれだけの価値がある、大事な良い存在なんだと、自分自身の自己肯定感やセルフイメージをも創られていくことです。つまり、アタッチメントは人の成長と人格形成に大きく影響する、人が生きていく基本となる仕組みといえるのです。

 一般的には、5~6歳までに具体的な関わりのなかでアタッチメント関係が結ばれ、それを元に養育者のイメージや自分のイメージが、自分の中にしっかり根付いていきます。これを心理学では内在化するといい、その人自身のものの見方になっていきます。いわば、自分独自の『色眼鏡』を通して世界を見るようになっていくのです。安定した、良好なアタッチメント関係があった子どもは、例えば、人を安心で大丈夫な存在という『色眼鏡』で見るようになり、誰に対してもニコニコと笑いながら「こんにちは」といえる人になります。また、自己肯定的なイメージも育まれますから、「自分はできる子だ」「この先きっとうまくいく、いいことがある」と、未来予測についてもポジティブになり、それは自己実現への積極的な行動につながっていきます。こうした『色眼鏡』、アタッチメント関係からつくられたイメージや未来の予測のことを内的ワーキングモデルといいます。この内的ワーキングモデルは不変というわけではなく、いろいろな人生体験の中で少しずつ変わっていきます。しかし、土台となるのは幼児期のアタッチメント関係が内在化した内的ワーキングモデルです。つまり、私たち大人は幼児期以降の体験や学習によって、自己を形成してきたと思いがちですが、そうした様々な体験や学習も、幼児期のアタッチメント関係から創られた内的ワーキングモデルによる自己認識や他者認識、社会に対する認識、そして未来の予測に基づいて行われた体験や学習なのです。人の成長や人格形成にとってアタッチメントがいかに重要か、おわかりいただけると思います。

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