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不安? 便利? もう始まっている人工知能が働く社会

福地 健太郎 福地 健太郎 明治大学 総合数理学部 准教授

人工知能の“仕事”には人の“割り切り”が必要

 だからといって人間という存在を過少評価するものではありません。人類は、囲碁を打つのに最適な仕組みを創造することにどうやら成功しつつあります。道を走る仕組みとして車を、空を飛ぶ仕組みとして飛行機を、それぞれ生み出したように、私たちはものごとを観察し、仕組みを生み出すことに長けていると考えてもよいのではないでしょうか。

 ただし、そこには注意しておかねばならないことがあります。車は平らな道でなければ満足に走ることはできません。飛行機は整備された飛行場がなければ離着陸することはできません。自然の生き物と比べると、私たちが作り出したものは人工的に整備された環境に強く依存しています。しかし私たちはそれをよしとし、環境を整備し続けることを受け入れています。便利さを享受するための“割り切り”があるのです。

 人工知能についても同じことがあてはまります。2015年には、ロボットが接客をするホテルが話題になりました。受付カウンターにいるロボットは宿泊客と受け答えをし、受付業務をこなしています。では、今後は他のホテルでも受付業務は順次ロボットに置き換えられていくのでしょうか。

 ここで思い出していただきたいのですが、かつては、電車を利用するときは駅の窓口で係員に行き先の駅名を告げ、運賃を聞き、その金額を支払って切符を買っていました。それが段々と自動券売機に置き換わっていき、利用者は自分で行き先までの金額を調べて、お金を券売機に入れて、ボタンを押して切符を買うようになりました。以前であれば、行き先にどうやって電車を乗り継いでいけばよいかは窓口の係員に聞くのがもっとも確実で早かったし、旅先であれば周辺の情報などもついでに聞くことができたものです。しかし、切符を買うだけであればそのような柔軟なサービスは必要ない訳です。事業者側は、自動券売機で提供するサービスは切符の販売のみと割り切って導入し、利用者もそれで十分と割り切り、双方で合意形成が進んでいったことで今の形に落ち着いています。

 ホテルの受付もこれと似た状況にあります。現状、どれほど高度な人工知能を搭載しても、人間の係員と同等の業務をこなせるロボットは配備できません。ですから現場にロボットを導入するのであれば、そのことを了解する割り切りが、宿泊客側にも事業者側にも求められます。この合意形成ができるかどうかで、ロボットへの置き換えが進むかどうかが決まります。

 そういった意味で、人間が担っていた職を人工知能に置き換えられるかどうかは、人工知能の問題である以上に、人間側の問題であるといえます。この合意形成のプロセスをどう設計するかで、これからの私たちの社会において人工知能の恩恵を皆が広く公平に享受できるかどうかが決まります。

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