
近年注目を集めている材料の一つに、カーボンナノチューブがあります。また、ある特性をもった材料群、スマートマテリアルの開発も急速に進んでいます。これまでになかった新たな材料の開発を通じて、未来につながる、さまざまな可能性が広がっています。
宇宙エレベーターの夢を背負う、軽量で高強度なカーボンナノチューブ
新材料の開発は、社会に大きな影響を与えることにもつながります。皆さんが耳にされたことも多いであろうカーボンナノチューブも、まさにそんな新材料の一つです。
カーボンナノチューブは、炭素の原子が網目状につながったシートが、さらにチューブ状になったものです。それ自体が一つの分子なので、原子間の結合が非常に強く、非常に軽い。さらには通電性や熱伝導性が高いという特性もあります。
たとえばペンキのような塗料に短いカーボンナノチューブを色が変わらない程度、混ぜることで、塗装した素材が電気を通すものにもなるわけです。カーボンナノチューブを混ぜ物として使い、材料の特性を変えていくという部分では、すでに利用が開始されているものもあります。しかし機械や飛行機などの構造物の素材として使うには、現在、製造できるものでは繊維が短すぎることが問題です。
繊維が長くなれば、はるかに強度が高くなります。とはいえ、繊維を長くするには結晶を成長させていく必要があり、それには時間がかかるうえ、大きくなればなるほど成長速度が落ちてしまいます。私自身も研究を進め、カーボンナノチューブに引っ張る力をかけながら成長させると、より真っすぐに伸び、強度も高まることを明らかにしました。ですが、一つの結晶として長く成長させることについては、課題が残ったままなのです。
もし分子構造に欠陥がない状態で非常に長い繊維を合成できれば、地上と宇宙をつなぐ宇宙エレベーターが実現できるのではないかと言われています。とはいえ宇宙エレベーターは、その高さが地球の直径の約8倍にも至る建造物です。短いカーボンナノチューブをつなぎ合わせていくようなつくり方では、目標とする強度は保てないでしょう。
不可能だと考える科学者が大多数でしょうが、実現に向けて取り組む研究者もいますし、研究を始めている企業もあります。実装となれば地球規模のプロジェクトです。研究を進めている人がいる限りは、いつかはできるのではないかと期待しています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。