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2022.11.18

「タンパク質は面白い」という好奇心が、がん退治にも繋がる!?

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基礎研究による裾野の広がりが大切

 ここまで読んだ読者の方々は、では、フェリチンによる温熱療法の実用化はもうすぐなのか、と思われたかもしれません。

 しかし、先に述べたことは試験管の中で確かめられたことであり、実用化するためには、まだまだクリアしなければならない壁がたくさんあります。実は、基礎研究の難しさと、応用研究の難しさは、ちょっと異なるものなのです。

 例えば、ナノマシンなどの研究成果が報道されて、大きな関心を集めることがあります。しかし、タンパク質はそもそもナノマシンであることは、研究者にとっては自明のことです。

 例えば、精子には鞭毛があり、それを波打たせることで、生体内を自ら泳いで進みます。この鞭毛は、これを波打たせるモーターや歯車などの役割をもったタンパク質によって構成されているのです。鞭毛と同じタンパク質で構成される繊毛は、脳や気管に分布しています。

 タンパク質によるモーターや歯車の機能は解明されていても、では、これを人が恣意的にコントロールするにはどうしたら良いかという研究は、また別に必要であり、そこに成果を出すのは大変なことです。

 その意味では、物理学や生物学、医学、工学など、様々な学術分野が横断的に協働することや、産学連携などが非常に重要になってくると思います。

 実は、先に述べたフェリチンの研究も、がんの治療だけでなく、関心をもってくれた企業とともに、効率の良い太陽光電池の開発や、非常に小さなメモリ素子の開発を進めたこともありますが、実用化はなかなか難しかったのです。

 しかし、そうしたトライアルの積み重ねの中から、新たな技術の開発やイノベーションが生まれるのです。その意味では、様々な基礎研究による裾野の広がりは非常に重要です。

 ところが、近年は、成果となるゴールを示さないと、科研費などもなかなか貰えません。しかし、基礎研究のきっかけは、研究者の好奇心であることが多いのです。

 実は、私のフェリチンの研究も、なぜ、タンパク質が鉄を作ることができるのか、溜めることができるのか、ということに疑問をもち、好奇心をかき立てられたことがきっかけです。最初から、がんの治療や、太陽光電池の開発を目的としたわけではありませんでした。

 結果的に、そうした成果にたどり着いたとしても、研究のはじまりは、ひとつの好奇心なのです。

 だから、研究のきっかけは自由で良いと思っています。実は、私も学生時代にそうやって育ててもらいました。私の研究室の学生たちにも、まず、研究は楽しいものであると感じてもらいたいと思っています。

 読者の皆さんも、基礎研究の成果が報道されたりすると、すぐに実用化されることを期待する気持ちはよくわかりますが、長い目で見ていただきたいと思っています。

 きっと、いつの間にか、新しい技術によって自分の生活や社会全体が大きく変わっていることに、気がつくことになったりするはずです。


英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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