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血液はサラサラだけでなく、ドロドロも必要!?

平野 太一 平野 太一 明治大学 理工学部 准教授

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私たちの身の回りには、物質の粘性が変化する特性を応用した製品が数多くあります。と言われても、ピンとくる人は少ないかもしれません。実は、ペンキや歯磨き粉(ペースト)などは、非ニュートン流体の特性が応用されているのです。それは、どういうことでしょうか。

物質は、実は、様々な挙動を示す

平野 太一 水は液体の状態だけでなく、気体になったり、氷のような固体にも変化します。それは、熱量を与えたり、奪うことによって起こる化学変化で、だれもが知っていることです。ところが、そこにあるままの物質が自ら変化することは、あまり知られていないと思います。

 例えば、ピッチドロップ実験をご存じでしょうか。樹脂の塊を漏斗に入れて、そのままなにもせずに置いておく実験です。1927年に始まりましたが、2014年までの87年間で、固体に見える塊から9回の滴りがあったのです。

 これは、複雑流体の流動と言われる現象ですが、観測時間のスケールによっては、固体が液体のような挙動を示すことが観測できるのです。

 逆に、一瞬で変化する液体の挙動があることを、実は、多くの人が知っていると思います。

 例えば、プールの水はゆっくり入れば何の変哲もない液体ですが、飛び込み台から飛び込むと、水面に当たったときに痛さを感じることです。

 つまり、水が一瞬で固体のような挙動を示したように感じられるのです。実際、高いところから飛び込んだとき、水面はコンクリートと同じなどと言います。

 このように、一見、変化しないように見える物質も、実は、様々な挙動を示すのです。

 液体の挙動を決める要因のひとつに、粘性があります。サラサラ、ネバネバといった特性です。人は、液体のそうした粘性を日常生活の道具などに上手く応用しています。

 例えば、ペンキはネバネバ過ぎては塗りづらいですし、サラサラ過ぎては壁面などに塗ると垂れてしまいます。そこで、使い勝手の良い粘性をもつように計算され、開発されているわけです。

 この粘性の度合いを示す値が粘度です。cP(センチポワズ)や、Pa・s(パスカル秒)などの単位で表され、20℃の水が1cPとなります。

 この粘度の計測法として一般的に用いられているのが、細管法と、回転式粘度計です。

 細管法は、細いガラスの管の中に測りたい液体を入れ、その液体が管の中を流れ落ちる時間によって粘度を割り出します。非常に単純で古典的な手法ですが、現在でも、最も精度の高い計測法です。

 一方、回転式粘度計は、試料液体が入った容器に回転子を浸し、その回転子を回します。すると、サラサラな液体であれば回転子が受ける抵抗は小さく、ネバネバした液体であれば大きくなります。その抵抗力を測る方法です。

 こうした粘度計は、私たちの身の回りの日用品を開発する際に、欠かせない器具のひとつになっています。

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