医学界から注目されるEMS粘性計測システムのメリット
近年、血液に対してサラサラとかドロドロという表現がされることを耳にすることが多くなりました。血液の粘性が様々な疾病に関わることがわかってきたからです。
ところが、血液の粘度の大規模なデータがとられたことは、おそらく、いままでないのです。それは、血液を試料とする場合、相当慎重に取り扱わなければならないからだと思います。
例えば、計測器具を完全に滅菌、殺菌することや、計測中に血液が外気に触れることも避けたい点です。細管法や回転式粘度計では、それは非常に手間がかかったり、難しいことだったのです。
しかし、EMSシステムでは、試料となる血液を入れた容器を密封した状態で計測することができます。
また、血液が触れるのは容器とその中に入っている回転子の金属片ですが、それらは、いまディスポーザブルされている注射針と同程度の費用で作れるものなので、これも、同じくディスポーザブルにすることが可能です。
しかも、必要な血液量は1ml程度で十分ですから、健康診断時などに採取された血液のほんの一部を提供してもらえれば、データをどんどん収集していくことも容易にできることになると思います。
実は、血液は、体内の太い血管を流れるときと、細い血管を流れるときの流動条件(流れの緩急)の違いを感じて粘度が何倍も変化します。
つまり、ただサラサラであれば良いというわけではなく、状況に応じてドロドロに変化する能力が高い血液ほど、健康状態が良いと言えるのかもしれません。
そうした血液の仕組みを解明する意味でも、血液の粘度のデータを収集することは有意義であり、EMSシステムはそれを可能にすることができるのではないかと考えています。
もうひとつ、EMSシステムのメリットを活かした研究があります。それは、アルコール飲料の口当たりや飲み応えといった感覚による評価を、粘度によって数値化する試みです。
現在、日本酒やワインといった発酵酒で研究を進めていますが、原材料の違いや、日本酒の場合は精米率によって粘度が変わってくることがわかりました。
ゆくゆくは、お酒を舌の上で転がす(小さなずり速度)ときや、喉を通る(大きなずり速度)ときの粘度が、旨いという感覚とどう関わってくるのかなどを解明できたら面白いと思っています。
実は、お酒のようにアルコールという蒸発しやすい成分を含む液体の粘度計測も、密閉した容器のまま計測できるEMSシステムだからこそ、精度の高い計測が可能なのです。
私たちの身の回りには、液体の粘性を上手く利用した製品がたくさんあります。
先に例として挙げたペンキやハンドクリームはもちろん、ペースト状が主流の歯磨き粉もそうです。チューブを一定以上の力で押すと押し出されますが、歯ブラシの上に乗せたままであれば形は変わりません。
このように、私たちが何気なく使っている日用品にも物理学の知恵が活かされ、人にとって使いやすいように制御されているのです。
皆さんも、そういう目で日用品を見てみると、どうしてこんなことが可能になっているのかとか、こうなるのは、よく考えたら不思議、というような発見があり、面白いのではないでしょうか。それらは、おそらく、どれも、物理学の知恵の積み重ねなのです。
私たちが、いま、研究を進めている血液の粘度計測や、お酒の粘度計測も、将来の医療や商品開発に活かされていくかもしれません。私たちもそういった情報発信を積極的に行い、皆さんに興味や関心をもってもらえれば、と思っています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。