すべての人に身につけてほしいデータサイエンスの基礎知識
データ分析は、AIなどを活用することで、今後、さらに発展していくと思います。
例えば、いま、私たちの研究室では、きゅうりの収量予測の研究を行っています。それは、きゅうりの収穫においては段取りや準備が必要であり、収量があらかじめ予測できれば、適切な準備ができるようになるからです。
そこで、私たちは、埼玉県農業技術研究センターとの共同研究において、ハウス内の状況を撮影した1万点におよぶ画像データをもとに、1週間後の収量を予測する数理モデルを作っています。
現在では、まだベテランの優秀な農家のレベルまでは至っていないと考えていますが、一定程度の予測精度が出るようになってきています。優秀な農家は、収量に直接つながるようなきゅうりの状況を確認するポイントなどについて、長年の経験から感覚的にもっているのだと思われますが、現在の我々の方法では、必ずしも全てはとらえきれていない状況と考えています。
こうした優秀な農家の技術や知見が今後も継承されることは、少子化が続くいまの日本では期待できないかもしれません。スマート農業を実現していくことは、いまの私たちの課題であり、また、農業の新たな可能性を広げていくことにもなると考えています。
その意味でも、優秀な農家に準じる予測値を計算できる仕組みを、様々なデータやAI、そして数理モデルで作っていくことはとても重要なのです。さらに、どの部分を見て収量を判断しているかなどの知見の可視化にも挑んでいます。このことも、知見の継承に重要と考えています。
こうした状況は農業だけに限りません。社会の様々な分野で、AIやDX、ITを導入していくことは不可欠になっていくと思います。
そのためには、データサイエンスの知識やスキルをもった人材を育成し輩出していくことは、大学にとって重要な使命のひとつになります。そこで、本学でも、「数理データサイエンス人工知能応用基礎レベルプログラム」を導入しています。
このプログラムは、総合数理学部の学生に限らず、全学部の学生が受講できます。論理的思考と好奇心、そしてデータサイエンスの基礎知識は、どのような分野においても現代人にとって必須であると考えるからです。
そうした能力が、自然や社会についての問題を自ら見出し、専門分野の知識に基づいて解決策を立案できるスキルに繋がっていくからです。
また、すでに社会で活躍されている方々も、ノーコード分析可能なツールなどを使えば、自分にとって興味のあることからデータ分析にふれることが可能になっています。
すると、自分が慣れ親しんだ分野に新たな発見ができるかもしれません。そこで、さらにデータ分析の知識やスキルを身につけるモチベーションが湧けば、本学をはじめ様々な大学で行われている社会人向け講座などに参加することもできます。
データサイエンスは若い人の方が有利と思われがちですが、実は、データの見方には、多視点的な総合力が重要であり、その意味では、社会経験の豊富な方々の経験値が活かせると思います。
皆さんにも、ぜひ、これからの社会に欠かせなくなるデータサイエンスの基礎力を身につけてもらいたいと思っています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。