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2022.07.13

数理モデルは近未来のスマート農業も実現する

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「データ同化」を私たちの安心、安全に活かす

 実は、ある現象の予測確率に対して、その現象に影響する新たな要因がわかるたびに予測値を修正していくベイズ統計という統計手法があります。データ同化では、このベイズ統計を活用しています。

 このデータ同化を用いたデータ分析は、もちろん、ビジネスに関わることやマーケティングなどに活かすことができます。さらに、私たちにとって安心、安全を高めるための分析に役立てることができます。

 例えば、私が以前関わった研究に、津波の予測があります。

 地震が起きて津波が発生したとき、それが沿岸に達する時間はどれくらいなのか、それは、海底の地形によって変わることがわかっています。つまり、津波の到達時間をより正確に予測するには、正確な海底の地形データがなければならないのです。

 ところが、当時入手できる海底地形データセットには相当の誤差があったのです。

 そこで、津波の速度を計算する数理モデルに、実際の沿岸津波到達情報などを与えるデータ同化の手法により、最適な地形の推定を行いました。

 つまり、現実の現象を測定したデータから、その現象の要因となる海底地形を逆推定したのです。それにより、今度は、津波の到達時間のより正確な予測につなげることができるようになるわけです。

 さらに、海底の地形は海況に影響を与え、津波だけではなく様々な海の現象にも繋がっています。なので、海況予測の精度を上げることで、例えば、海難事故時の潮流推定などにも有効に活用できるようになります。

 連続犯罪の犯人の居住地を割り出す地理的プロファイリングの精度を上げる研究にも、データ同化での計算法を活用したベイズ統計手法を用いました。

 強盗や放火などの犯罪は、同一犯が続けて犯すことがあります。その犯人の拠点をアンカーポイントといいますが、犯罪心理学の研究により、犯行地点はアンカーポイントからどれくらい離れたところになりやすいかについての知見がありました。

 私たちは、そこに、人口密集度など事前に定める犯人存在確率にかかわる分布情報を加えたうえでアンカーポイントを計算する統計モデルを作ったのです。その結果、従来の地理的プロファイリングの手法に比べ、精度を上げることができました。

 この結果は、犯人逮捕を高めることに繋がりますし、重点パトロールなどの地域を絞り込むことで、犯行を未然に防ぐことにも繋げられる可能性があります。

 人にとって不確実な現象ほど、不安や危険を高めます。その不確実性をより高い精度で予測することができれば、それは、安心、安全に繋がることになります。

 データ同化やベイズ統計によるデータ分析をそうした分野へ応用していくことで、社会に貢献していくことができると考えています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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