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考古学の新たなロマンを生み出す数理科学

若野 友一郎 若野 友一郎 明治大学 総合数理学部 教授

近年、数理科学による考古学との学際的な異分野研究が始まっています。それによって、新たな発見や学術の進展にも繋がっていると言います。こうした異分野研究の取り組み方は、学術の世界だけでなく、私たちの日々の生活に、様々な変化や面白さをもたらすヒントにもなるかもしれません。

数理科学による異分野研究が増えている

若野 友一郎 数理科学の専門家が他の学術部門の研究に参加することは、近年、増えてきています。

 その大きな理由のひとつは、現象を説明するとき、数理モデルによって数式で表すことによって、それは100%ロジックが通っているものになることです。

 従来は、それを言葉による論文などで著していました。その場合、その論文を著した研究者にとっては、そこには明確な論理があり、一貫しているのだとしても、それは、その専門の研究者のレベルにならないとわかりづらい場合もあります。

 すると、部外者にとって、その論理は曖昧であったり、しっかりと繋がっていないように感じられることもあります。

 そこに、数式を用いた数理モデルを導入すると、そうした曖昧さや不確かさがなくなり、論理を保証することができるわけです。

 もうひとつの理由は、仮説を提供することです。

 学術研究とは、基本的に、既成の理論による命題では説明のつかない現象などに対して、仮の命題である仮説を設定し、その仮説を基に研究を進めます。

 そのとき、数理科学を導入することによって、測定可能な変数の関係に着目しやすくなります。それを作業仮説などと言いますが、要は研究の方向性を定める明確な仮説を提供することができるわけです。

 数理科学による異分野研究は、もちろん、他にも様々なアプローチがありますが、私は、こうした形で異分野に参加しています。

 例えば、私は数理生物学の出身ですが、実際に、アメリカのケンタッキー州の大自然が残る地域でサンショウウオの研究に参加したことがあります。

 サンショウウオは両生類で、基本的には、幼虫のころは水中に棲み、成長すると陸に棲むようになります。

 日本の天然記念物のオオサンショウウオが成長してからも水中に棲み続けるように、種によってその生態は異なりますが、同種の中でも、水中に住み続ける者と、陸に上がる者がいる場合があります。それがなぜ起こるのかを調べる研究でした。

 面白かったのは、サンショウウオ研究の専門家は現場のことに精通しているのですが、私の目から見ると、現場で起こる事象に都合の良い論理を作りがちなのです。

 すると、それは、確かに、現場で起こる原因と結果の因果関係を繋げる論理になっているように見えるのですが、では、ケンタッキー州とは別の環境でもその論理が適用されるのかというと、ちょっと疑問になるのです。

 すべてのサンショウウオにGPSのタグを付けて、その行動をデータ化することができれば、より明確な答えが導けるのですが、それは、まず不可能です。

 そこで、私は、生物の行動進化に適用する数理モデルなどを当てはめて仮説を設定し、サンショウウオの行動を調査する提案をしました。

 まだ、完全に解明されたわけではありませんが、これによってサンショウウオの行動のメカニズムがわかれば、研究は、さらに様々な方向に広がっていくと思います。

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