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考古学の新たなロマンを生み出す数理科学

若野 友一郎 若野 友一郎 明治大学 総合数理学部 教授

人類の知恵を解きながら自分たちの生活に活かす

 数理科学の考え方が様々な学術分野で応用されることによって、これまでにないストーリーを提供でき、それに沿った新たな調査研究が進められています。

 特に考古学は、生物学が現存する生物を調査対象にできるのと異なり、いまはいなくなってしまった人々やその文化を対象とするので、ストーリーや論理を提供することには大きな意味があると思います。

 最初に述べたように数理科学は100%ロジックが通った考え方なので、計算による無味乾燥とした世界と思われがちですが、決してそんなことはありません。例えば、考古学のロマンが膨らむようなストーリーを提供することもできるわけです。

 それが、今回のように文化の伝播のストーリーであった場合、そのモデルは、例えば、様々な時代における人類の情報の伝播を解き明かすモデルとして応用することもできるようになる可能性もあるのです。

 例えば、いま、私たちはコロナ禍で大変な状況ですが、人類がパンデミックに襲われるのは初めてのことではなく、歴史上何度も起こっています。

 そのとき、住みかにこもることや隔離の有効性であったり、治療薬となる薬草であったり、そのときに必要な貴重な情報を、文字のない時代は集落の長老が生き字引で、それを人々に教えてきたのかもしれません。

 しかし、平時に緊急時の情報をどういった意識で、どのように若い世代に伝えたり、あるいは、広めていったのか。そういう知識の継承ができた集団だけが、パンデミックを生き延びたのかもしれません。そうした人類の知恵や文化は、将来の人類にも伝えるべき財産なのだと思います。

 そうした意味では、現代でも各地に残る遺跡が内戦などによって破壊されたりしているのは、非常に残念です。日本も、明治期に廃仏毀釈が起こり、貴重な遺産を大量に破壊した歴史があります。人類には、文化を生み出し、守り伝えていく一方で、そうした浅はかさがあるのだと思います。

 こうした人類の浅はかさを省みるためにも、考古学や歴史に目を向けることは貴重であり、その中で、知的好奇心をくすぐる楽しさを知ることもできると思います。

 そのとき、数理科学の考え方や視点で見ると、さらに、考古学がロマンに満ち、新しいストーリーを生み出す魅力に溢れていることに気がつくこともできると思います。

 皆さんも、数学や数理科学をそんなふうに、様々な分野や日常生活に活用してみてはいかがでしょうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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