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2021.08.05

気候変動を起こす人の営みを変えるために必要な知恵とは

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生態系の多様な機能と共に生きる生き方

 農村が荒廃しても、それは、人による土地利用がなくなって自然に還ることなのだから、そんなに悪いことではないのではないか、と思う人もいるかもしれません。しかし、それは違うのです。

 生態系機能という言葉があります。それは、自然の生きものとそれを取りまく環境の関係である「生態系」が生み出す働きや価値のことです。人は、そこから恩恵を受けてきたので、生態系サービスと言うこともできます。

 まず、人は、生態系から物質提供サービスを受けてきました。例えば、食物であり、木材や水資源などです。人は、それらを自然の恵みとして、大切に活用してきたのです。

 文化的なサービスもあります。人は生態系から様々なことを学び、文化を築いてきました。今日でも、その歴史を学ぶことができますし、さらに、環境教育の一環やハイキングなどのレクリエーションの場としても活用することができます。

 また、環境調節サービスも生態系の大きな機能です。例えば、生態系の植物が二酸化炭素を吸収し、酸素を排出することによって大気環境は調節され、それは、気候の調節に繋がっています。また、土砂の浸食抑制、河川の流量調節など、要は、自然災害を防いでくれるのも生態系の機能なのです。

 そして、こうした生態系機能の基盤を支えているのも生態系自身なのです。

 例えば、二酸化炭素を吸収した植物は、それを体内に蓄えるだけでなく、枯れれば土壌の中に炭素を蓄積していきます。

 その土壌は、植物をはじめ動物が死ぬと微生物などによって分解されて土に還り豊かな土壌となり、また植物が育ち、動物が生きるという持続的な循環を形成しています。

 つまり、生態系は、多様な生物の種や個体群を守っていて、生態系が持続するのです。

 そして、そうした多様な生物が生き、循環する生態系を、人は利用するだけでなく、実は、人が手を加えることでその多面的な機能をより効果的に持続させてきたのです。

 例えば、森林の樹木は二酸化炭素を吸収しますが、老齢林になると吸収量は小さくなっていくのです。森林を伐採しその材を利用し、伐採地に植林することは、多様な生物の成育を助けるだけでなく、大気環境の調節という意味でも有効なのです。

 江戸時代の人たちが、生態系の多面的な機能を意識して、里山づくりを行っていたのか、それはわかりません。

 しかし、彼らの里山の管理方法や、化石燃料を使わない生き方が、人自身が生態系からサービスを享受するとともに、その生態系の循環と持続に寄与していたことは間違いありません。その術は、現代の私たちが見失ったものでもあると言えます。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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