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気候変動を起こす人の営みを変えるために必要な知恵とは

矢﨑 友嗣 矢﨑 友嗣 明治大学 農学部 准教授

生態系の理解を深める情報を発信する

 もちろん、私たちは江戸時代の暮らしに戻らなくてはいけない、というのではありませんし、現実的に戻ることはできません。当時と比べ、日本の人口は数倍に増加しています。これだけ多くの人たちが豊かに暮らすためには、化石燃料を活用することは効率的なのです。

 でも、それによって気候変動が起きるほどに温室効果ガスが増えたり、人々が都市に集中することで農村が荒廃し、都市にヒートアイランド現象が起こることが明らかにもなったのです。私たちは、私たちの社会のシステムを変えていく必要はあるのです。

 そのために、化石燃料などを使っていなかった時代の人々の生き方の術から学ぶことはできると思います。

 例えば、近年では様々な再生可能エネルギーが実用化されていますが、そのひとつにバイオマスがあります。

 これは、私たちの生活から排出されるゴミなどや、樹木や植物の残渣などを活用してエネルギーを得る技術で、ある意味、伝統的な資源活用法です。

 つまり、太陽光や風力を活用するのと違い、人の生活や生態系から生じる資源を活用することで、人自身が生態系の循環と持続に組み込まれるような仕組みなのです。

 江戸時代などに比べると、私たちの科学技術は格段に進歩しました。それによって多くの人が豊かに暮らすための仕組みを開発することができましたし、さらに、その仕組みに欠陥があることも理解できるようになったのです。

 だとすれば、その進んだ科学技術を、人々が生態系と共存するような形で生きていた時代の知恵を活かすように活用することも可能であると思います。

 そのためには、科学技術を進歩させていくだけでなく、それを活かす考え方、新たな価値の創出が必要なのだと思います。

 そのためには、現代の私たちが見失った知恵をもう一度、見直すことも必要であり、私たち研究者は、そのために、情報を発信していかなければいけないと思っています。

 例えば、都会に暮らす人々は、公園の樹などを切るというと大反対しますが、先に述べたように、生態系の機能を理解すれば、人が適切な手を加えることで、その機能は持続されることもわかるのです。

 同じように、荒廃していく農村は単に自然に還るのではなく、生態系のバランスを崩すことにも繋がるのです。

 そうしたことを見直して新たな価値を創出し、新たな社会システムの構築をみんなで考えていくために、必要な情報を発信していきたいと思っています。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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