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2021.03.17

デジタル機器に欠かせない透明導電膜の作製技術を自然界に学ぶ

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透明導電膜を作る気相法の課題

 現在、薄膜を作製する方法には、主に物理蒸着法(PVD)と化学気相蒸着法(CVD)の2つありますが、それらは気相法と言われる手法です。

 例えば、一般的な透明導電膜は、スズドープ酸化インジウム(ITO)という金属酸化物を素材とし、PVDの一種であるスパッタ法で作製されます。それは、高真空状態の中で、ITOの固体に対して高エネルギーのプラズマ化した気体分子をぶつけ、その衝撃で飛び出した原子を基板上に堆積させて薄膜にするという方法です。

 この方法のメリットは高真空の中で作製するので、不純物が混ざりにくく、非常にきれいな薄膜ができることです。透明導電膜は精密な電子機器に使われることが多いので、高品質の薄膜が作製できることは大きなメリットになるわけです。

 一方で気相法でのITO膜の作製には問題もあります。まず、素材となるインジウムはレアメタルと言われる希少金属です。以前は、それほど需要はありませんでしたが、2000年代に入って液晶パネルの製造が増大すると、一気に需要が高まりました。そのため価格が高騰し、投機の対象となったり、外交戦略に利用されることもありました。

 そこで、代替材料の研究が進められました。例えば、酸化スズや酸化亜鉛、酸化チタンなどの薄膜や、金属をナノサイズの細いワイヤーにして、それをメッシュ状にする技術、また、カーボンを素材にしたカーボンナノチューブなども開発されました。

 しかし、代替材料の研究は、薄膜作製プロセスの分野では下火になっていきます。

 その理由は、スパッタ法での原料の回収技術が発展したためです。実は、スパッタ法による原料使用率は、数%程度なのです。それは、原子を飛び散らせ、上手く基板に堆積したものだけが使われていたからです。つまり、原料のほとんどを捨ててしまうという非常に非効率的な方法だったのです。

 ところが、価格高騰や輸出規制などの危機に直面したことで、スパッタ法の改良も進み、飛び散った原料を回収し、再度使う技術が開発されたのです。これにより、インジウムを素材とするリスクは大きく下がりました。ただし、インジウムがレアメタルであるという資源制約の問題は解決されていないため、代替材料の開発は必要であると考えています。

 もう一つの問題は、気相法の本質的な部分に存在すると私は考えています。それは、原料を気体や原子・分子の状態とするために高いエネルギーが必要である、ということです。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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