活性酸素と言えば、私たちの身体の老化を促進するものと思われていますし、さらに、生活習慣病にも関わることがわかってきて、すっかり悪者のイメージが定着しています。しかし、植物の環境ストレスの応答を調べると、活性酸素がなくてはならない物質であることがわかります。
植物免疫機能を担う活性酸素
植物は環境から様々なストレスを受けます。例えば、日照の過剰であったり不足であったり、乾燥や病原菌もストレスになります。そうしたストレスに応答するために、植物の中でなにが起こるのかを調べるために、植物内の物質の変化を分析する方法があります。
例えば、土が酸性化して酸性土壌になると、土の中にたくさんあるアルミニウムが溶けてアルミニウムイオンになります。ところが、それは、植物にとっては有害物質です。
すると、アルミニウムイオンに曝された根に活性酸素が溜まるということが知られていました。
そこで、私たちは、アルミニウムイオンを吸った根と吸っていない根の活性酸素量の違いを調べるために、根をすり潰して活性酸素を抽出し、その量を測定する実験を行っていました。
しかし、根をすり潰しても活性酸素が出てしまうため、この実験方法で活性酸素量を測定しても、それがアルミニウムイオンのストレスによるものだけとは言えなくなります。
そこで、私たちは、根から滲出する化学物質を測定する方法を着想します。実は、植物の根は環境にあるものを吸い上げるだけでなく、様々な物質を滲出させているのです。
すると、アルミニウムイオンをはじめ、病原菌など、植物にとって有害となるものが侵入してきたときには、活性酸素を一過的に大放出していることがわかりました。
やはり、活性酸素によって、自分にとって有害であるものを酸化させて殺していたのです。これは植物免疫という機能で、植物にとってはなくてはならない機能なのです。
人にとっては、活性酸素は老化や生活習慣病に関係していると言われ、すっかり悪者のイメージですが、実は、私たちにとっても免疫の機能を果たす物質でもあるのです。細菌などが体内の細胞に侵入してくると、細胞はそれを膜で覆い、その中に活性酸素を放出して殺菌しているのです。
すなわち、老化や疾病に関わる一面だけを捉えて活性酸素を悪者扱いするのではなく、その多面的な機能や特質を理解し、上手く利用することが、私たちにとって有効であるのです。
このように、物質の知られていない面や、私たちに見えていない面を、化学的な分析によって見える化し、理解していく研究が分析化学です。
例えば、この活性酸素ひとつとっても、まだまだ私たちに見えていない機能があるようなのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。