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ストレスから救ってくれるのは、老化の主犯の活性酸素!?

安保 充 安保 充 明治大学 農学部 准教授

必要に応じて活性酸素をコントロールしている植物

 そもそも活性酸素とは、酸素分子が電子と反応することで生まれます。例えば、酸素分子に余分な電子が付くと、スーパーオキシドアニオンラジカルという物質になります。そこに電子がもう1個付くと過酸化水素になり、さらにもう1個付くとヒドロキシルラジカルになります。

 これに一重項酸素を含めて活性酸素種(ROS)と言い、非常に反応性が高く、様々な酸化反応を起こします。それが、ある場合は免疫として機能したり、老化や生活習慣病に関わることにもなるわけです。

 さらに、植物では、根毛が伸びるときには活性酸素が出ていると言われていました。それも、15秒から30秒周期で少量ずつ増減しているのです。

 また、植物には、活性酸素を根から外に出す酵素があるのですが、それが欠損している植物は根毛が伸びないこともわかっています。

 なぜ、このような現象が起こるのか、実は、まだ解明されていません。しかし、有害物質によるストレスのときは一過的に大放出されて免疫機能を発揮する活性酸素は、通常では、少量ずつ作られながら、根を健全に伸ばすことに関与しているのではないかと考えられます。

 つまり、植物は、必要に応じて活性酸素を活用できるようにコントロールしていると考えられるのです。

 活性酸素を悪者だとイメージしている私たちは、活性酸素は体内で勝手に生じてしまう厄介者と思いがちです。

 確かに、人を含め、多くの生き物が酸素呼吸をしています。植物も、光合成のために二酸化炭素を吸入するだけでなく、酸素呼吸も行っています。それは、生き物にとって、酸素によってたくさんのエネルギーを得ることができるからです。

 人の場合、細胞の中にあるミトコンドリアが酸素を利用してエネルギーを作っています。その過程で、先に述べたように、酸素分子に電子が付いてしまうことが多々あるのです。それが活性酸素種になるのですが、抗酸化系の酵素でコントロールしているのです。

 一方、植物の場合、様々な作用をもっている植物ホルモンを作り出すには、たくさんの酵素やエネルギーが必要で、時間もかかります。

 それに対して活性酸素は構造が非常に単純で、おそらく、植物にとっては簡単に素早く大量に発生させることができるわけです。そのため、様々な形で活用しているのだと考えられます。

 もちろん、いくら免疫のためだとはいえ、大量に発生させたままでは自分自身の細胞が危なくなります。そこで、活性酸素を除去する酵素も必要で、そうしたことも含めて上手くコントロールしていると考えられるのです。

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