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人の生活を助けるロボットの普及を妨げているのは、「人」である

明治大学 総合数理学部 教授 小松 孝徳

人の目に触れないロボットが人と共存する

 では、こうした人の心理を考えると、ロボットを私たちの生活空間に普及させることは無理なのでしょうか。

 例えば、ヒューマノイドロボットが仕事をしていることで話題になっているホテルがあります。そこでは、人とロボットの共存があるように見えます。

 しかし、そもそもホテル自体が非日常空間であるため、ヒューマノイドロボットもある種のアトラクションのように受け止められているのだと思います。

 もし、あのヒューマノイドロボットが日常的な生活空間にいたら、「不気味の谷」問題のように気味悪がられたり、「適応ギャップ仮説」の通り、その動きがまどろっこしく思われ、失望を招くかもしれません。

 また、家庭で使われるロボットとして、最近、愛玩動物的なデザインのものが話題になっています。このロボットはそのデザインから期待値が高くならないところを狙っていると思われ、その意味では、「適応ギャップ仮説」を上手く利用していると思います。

 しかし、このロボットも、今後、日常生活になんらかのメリットや価値を見出されなければ、やはり評価は得られません。つまり、こうしたロボットの普及が進むのか、それは、まだ、なんとも言えない状況です。

 むしろ、面白いのはお掃除ロボットかもしれません。実は、私の家にもお掃除ロボットがあり、毎日、部屋の掃除をしています。

 その意味では、生活空間において人と共存しているのですが、彼らが活動しているのは私が留守のときなのです。私がリビングにいるときに動き出すと、うるさいので止めます。

 つまり、お掃除ロボットは私の知らないところで勝手に仕事をしているから、共存が成り立っているのです。ここには、人とロボットの関係の本質的なところがあるのかもしれません。

 実は、介護などの分野では、ロボット自体が働くのではなく、人である介護者がパワーアシストのような機械を装着して働くやり方の方が受け入れられています。

 つまり、ロボットという形にとらわれずに、その技術を分解して活用する仕組みなのです。やはり、ここでも、ロボットは人の目には触れない形で共存することになります。

 ロボットの研究は、工学的分野の技術開発がメインで進められてきました。実際、今日のロボット工学の技術は非常に高い水準に達しています。しかし、それでも、私たちの日常の生活空間にロボットが普及しないのが現実なのです。

 その要因を、さらなる技術開発だけに求めるのではなく、人の心理という、いままでと違った視点から考察することは、課題に対して違った角度から光を当てることであり、そこには、異なる解決方法が見えてくることにもなります。

 こうしたやり方は、ロボットの問題だけでなく、私たちの毎日の暮らしや仕事においても活かすことができる方法だと思います。難題に対して、いつもと違う視点から見直してみることは貴重なのです。

 特に、哲学は学校で学ぶだけで実生活では役に立たないと思われがちですが、物事は人の思考との関係で成り立っているのです。だから、難題を考えるベースになるヒントが、哲学にはたくさんあると思います。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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