2024.03.14
- 2020年4月22日
- IT・科学
画像処理技術は、より安全と公平を社会にもたらす
宮本 龍介 明治大学 理工学部 准教授>>英語版はこちら(English)
近年、ビッグデータを利用する機械学習によるAIの進歩と、その応用が注目され、話題にもなっています。中でも、画像処理は深層学習と呼ばれる機械学習手法の恩恵を大きく受け、様々な実用的な課題の解決を図ることが可能になってきていると言います。
画像から様々な情報を取り出す画像処理技術
画像処理というと、写真などの画像の変形や合成、色合いを変えたりすることをイメージする人が多いと思いますが、それに加えて、画像から様々な情報を取り出す技術でもあります。
画像から抽象度の高い情報を取り出す研究は昔から取り組まれていましたが、実用的な精度は実現されていませんでした。しかし、近年、機械学習の導入により、その精度は急激に上がっています。
例えば、自動運転の実現には、障害物の回避が不可欠となりますが、LiDARやRADARといった高性能のセンサーを使うことで歩行者や障害物を正確に検知することができるようになっており、すぐにでも実用化が可能と言って良い程のレベルに達しています。
ただし、ネックは価格です。3次元的な距離をとれる3D LiDARなどを必要なだけ搭載してシステムを組むと、車本体より高い価格になってしまいます。
そこで、私の研究室では、一般的な光学カメラを用い、画像情報のみを用いて制御する自律走行の研究を行っています。
現在では、目的地までのルートを設定すると、途中に予期せぬ障害物があっても避けながら進む、自律走行ロボットが完成しています。
発想の原点にあるのは、人の目です。人の目は、LiDARやRADARのように周囲の様々なものまでの距離を正確に測れるわけではありません。しかし、どこが道で、どこに障害物があるのかを認識することで、事故を起こさずに歩くことができます。
つまり、シンプルな光学カメラでも、道や障害物の状況を判断できる画像処理ができれば、自動走行ができるわけです。
もちろん、公道を走る車を自動運転にするためには、もっと精度を高めなければなりませんが、画像処理技術を使えば、非常に安価に自動運転のシステムを作ることが可能なのです。
要は、単なる画像からでも、適切に情報を取り出すことによって、必要な認識や判断が行えるのです。このように、機械学習の導入によって画像処理技術が劇的に向上しています。
他にも、私たちは、一般的なカメラの映像から、人物照合を行う研究もしています。それは、映像から人の歩き方である「歩容」に関わる情報を取り出すことが可能だからです。
実は、歩くというシンプルな動作でも、人は、骨盤、股関節、膝、足首の使い方、また体重移動の仕方に相当な個人差があり、それは生来の癖になっています。
その歩容は、人の体の関節など様々な部位にセンサーを付けて測定すればすぐにわかりますが、外部から撮った映像からでもそれができれば、非常に簡単に人物照合ができることになります。
この技術を活用すれば、例えば、最近、保釈中の被告が密出国する事件がありましたが、彼がどんなに変装していたとしても、それを捉えることができたかもしれません。彼が荷物に潜んでいれば、本人を直接見つけることは無理ですが、その重みで荷物を運ぶ人の歩容に変化があれば、それを捉えることもできたかもしれません。
この技術は、こうした人物照合だけでなく、医療にも応用することができるのではないかと考えています。
例えば、歩容が日頃と違うとき、それは、体のどこかを傷めているからかもしれません。それを的確に見つけることができる可能性があるのです。