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「フェイクニュース」は「嘘ニュース」のことではない

大黒 岳彦 大黒 岳彦 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授

メディアから発信される情報について、「フェイクニュース」や「ポストトゥルース」という言い方をすることがあります。一般には、「嘘ニュース」、「真実でないこと」という意味で捉えられていますが、そういう捉え方では、現代の情報社会の状況は把握できないといいます。

SNS上の情報はすべてフェイク

大黒 岳彦 「フェイクニュース」は、アメリカのトランプ大統領が自身に対して批判的なメディアなどに対して頻繁に使ったことから話題になりました。日本では、災害時などに人々の不安を煽るようなデマ情報に対して使うこともあります。

 一般には「嘘ニュース」と解されていますが、私は、「フェイクニュース」は決して「嘘ニュース」ではないと思っています。そのことは、メディア論から考えるとわかりやすくなります。

 カナダ出身の文明批評家マクルーハンは、メディアには大きな枠組みがあり、それは太古の昔から現在まで、何回か変移していると述べています。

 最初の枠組みは、声です。直接的なやりとり以外にメディアがなかったわけです。その後、文字が発明され、メディアの枠組みは手書きの文字となります。15世紀になり、グーテンベルグが活版印刷を発明すると、メディアの枠組みは活字になります。印刷物のことです。

 そして、このあとにくる枠組みが、私はマスメディアだと思っています。19世紀半ば以降から2011年まで、マスメディアと接することがすなわち情報を得ることであったわけです。

 なぜ2011年かについては、ここでは詳述を控えますが、その年以降、実質的にマスメディアは主導権を失い、現在はインターネットがメディアの枠組みとして完全に確立されています。

 さて、わずか8年前まではメディアの枠組みであったマスメディアにおいては、情報の価値とは正しさ、つまり「真実性」(トゥルース)でした。

 プロの記者やディレクターが複数のソースから情報の裏をとり、いわゆるガセネタを排除することで情報の正しさ=真実性を担保していたのです。そこで、正しいということがニュースバリューとなり、これが大衆(マス)に流されるわけです。

 誤報をしてしまった場合などは可及的速やかに訂正がなされますし、いわゆるヤラセやねつ造などをしようものなら、他の報道機関から激しく叩かれます。だから、大衆もマスメディアを信頼していました。

 ところが、インターネット上のSNSで情報が流通するようになると、その情報が複数のソースから裏をとったもの、ということは、まずありません。基本的には、嘘か本当かわからないということが、デファクトスタンダード(事実上の標準)になっています。

 例えば、SNS上ではリツイートという形で情報が拡散しますが、拡散している人たちがこれを嘘だと思っているかというと、決してそうではなく、「事実かもしれない」と思っていると思います。

 つまり、自分が主張している、あるいは、発信している意見の真実性をなにがしか信じた上でアップロードしているわけです。

 マスメディアの論理でいえば、このような形で飛び交っているSNSの情報は、当然、すべて「嘘ニュース」ということになります。

 ところが、このマスメディアは、インターネットによって、すでに枠組みから降ろされたメディアです。

 つまり、「嘘ニュース」というのは、現代のメディアを前代のメディアの価値観で捉えている言い方というわけです。それでは、現状を正しく把握することは難しいでしょう。

 基本的に、SNSというインターネットをメディアとする情報の質というものは、すべてフェイクであり、このインターネットの枠組みの体制を、「ポストトゥルース」(「真実」以降、もしくは、次なる“真理”)というのだと、私は考えています。

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