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2018.08.22

宇宙開発に貢献した「折紙」は人間の未来も救う!?

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世界の水問題解決に向けて「球状ハニカムコア」

石田 祥子 折紙というと、「素材は紙のみ。1枚の紙を折って作る。」というイメージがあるかもしれません。しかし、私は、1枚の紙から折り上げることにこだわりはありません。重要なのは、人の役に立つものや技術を生む手段として折紙が利用できるということであり、目的に合わせて紙以外の素材を選択しますし、素材を切ったり接合したり、加工して使用することもあります。しかし、自然界には1枚の紙で表現できる形で着目すべきものがたくさんあります。例えば、朝顔のつぼみは、ねじるように小さく畳まれており、朝になると大きく円錐状に開花します。自然界の形はとても洗練されていて、進化の過程で、最も良い形に徐々に最適化されたとするならば、朝顔の花の畳まれ方にもなにか意味があるのではないか、と考えます。その意味を考えることが重要なのです。植物の生長とかかわりがあるのか、花を開くときのエネルギー効率なのか、私たちがまだ知らない形の意味を明らかにすることで、形が生み出す機能を工学的に応用できる可能性が広がるからです。この場合の1枚の紙とは、最もシンプルな形状を指しており、複数の素材や部品を複雑に組み合わせて機能を得るのではなく、必要最低限の部品で同じ機能を得ることができれば、軽量で無駄がなく、製造しやすい形となり、工学的にも大きな意味があります。他にも、蜂の巣はすでに工学応用されている自然界の形のひとつです。薄い金属箔を折って貼りあわせることで、蜂の巣のような六角形のセル構造を生成するもので、ハニカムコアと呼ばれます。軽くても大きな荷重を支えることができるため、建築資材や航空機の機体などにも使われています。私たち「機能デザイン研究室」は、一般的な平板状ハニカムコアを応用して「球状ハニカムコア」を設計、製作し、2018年3月、ブラジルで開催された第8回世界水フォーラムに発表しました。

 この世界水フォーラムとは、地球上の水問題解決に向けた議論や展示が行われる国際会議です。例えば、水道インフラが整っていない地域の人たちは、毎日、生活に必要な水を遠くまで汲みに出かけ、重い水を担いで運んでいます。そうした人たちを支援するNPO法人から、楽に運ぶために転がせる水の容器を製作できないかと依頼を受けたのです。しかも、その容器は軽くて、水を入れていないときは畳んで持ち歩けることが条件でした。そこで、私が発想したのがハニカムコアです。ところが、ハニカムコアはどのような荷重にも強いわけではなく、大きな荷重を支えることができるのは、ハニカムを構成する六角形セル1個1個の壁が立っている方向です。壁の横方向からの力には、実は弱いのです。そこで、コア壁が放射状に配置された円筒ハニカムコアにすると、転がしながら、中の水の荷重を受けることができます。ところが、円筒形では転がす方向を変えるのが大変です。転がす機能性を高めるには球状が最適です。そこで、コア壁が放射状に配置された球状ハニカムコアで、なおかつ、簡単に畳むことができ、素材としては、一定の強度があり、軽いポリプロピレンを利用し、まずは骨格を作り、世界水フォーラムに出品したのです。展示ブースには、水問題の活動家をはじめ、研究者や政府関係者も訪れて、関心をもってもらったようでした。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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