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2018.02.07

デジタル化された日々に、健全なアナログ志向を持ち込もう

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アナログ作業は、デジタル化した創作活動を拡張する

 壮大な物語を多く執筆する古川さんが、あえて「手書き」にこだわる理由。それは、デジタル化に対する、単なる「抵抗」ではありません。古川さんの挑戦は、いわばデジタル化によって完結し、閉じられてしまった創作活動というものを、もういちどみずからの手で「拡張」しようとするものです。事実、デジタル化の波と無関係でいられるアーティストやクリエイターは、現在ではほとんどいません。他の例を挙げますと、若者に絶大な人気をほこる小説家の西尾維新は、原稿執筆の際に、インターネットに接続されていない携帯用のワープロ機器を使用していると、彼自身の対談集で語っていました。彼の作品はアニメ化もされており、その創作活動は、メディアミックスのお手本と言っても過言ではないでしょう。そうした彼が、あえて最新のネット環境から距離をとるような創作態度をとっていると知ったとき、驚きとともに、執筆とはやはり、本質的にそういうものなのかもしれないと納得しました。というのも、たとえば創作に必要な資料や情報があったとして、それらに常時アクセスできる環境に身を置くことは、作家にとって必ずしも良いことだとは言えないからです。作家を含めたあらゆるクリエイターたちは、みずからの表現を探り続ける過程で、ときに研究者と同じくらいのたくさんの資料や情報にあたりながらも、そうした「他者の言葉」からどうやって自分なりの距離をとるかについて、いつも考えを巡らせているものなのです。

 キーボード入力の前に、手書きを行う。オフラインにして、情報検索やメッセージのやり取りを一時的にやめる。そうやって、最前線で活躍する作家たちは、デジタル化された創作活動をカスタマイズし、拡充しています。実際、創作には、アナログ作業が欠かせません。作家の仕事として、執筆の次に重要なのが、「校正」です。これは、原稿が印刷所に入稿される前段階で、複数回に渡って、仮組みされた活字を赤ペンなどで修正していく作業です。幸いなことに、書籍づくりにおいて、この校正のやり取りは、今でも手作業が中心です。ただし、この校正作業にもデジタル化の影響はしっかりと窺えます。それは、前世紀までは一般的だった活版印刷のものと比べると一目瞭然です。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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