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AIと共生できない人は生き残れない!?

小笠原 泰 小笠原 泰 明治大学 国際日本学部 教授

AIは人間的になることを目指しているのではない

 こうしたAIの進歩が進むと、AIは人のような意識をもてるのかとか、人間的になるのか、といった議論が出ます。しかし、それは大きなイシュー(論点)であるとは、私には思えません。AIとは、artificial intelligence、人工知能というため、誤解されがちですが、AIは「人」に向かっているわけではありません。逆説的にいえば、AIが「人間的」になることは可能だと思います。例えば、人の閃きや直感は機械には真似できないといいますが、人も経験値がゼロの状態では閃きも直感も生まれません。経験値とは、その人の外にできあがっている知識体系を覚えたり、各人の固有の体験を積み上げていくことで成り立ちます。つまり学習です。閃きや直感とは、学習によって得た経験値を基に、ある状況において最適なものを、本人にとっては無意識のように選んでいることです。つまり、人間は自覚がないので無意識といっていますが、本質的には、いまAIが行っている学習、判断のプロセスと変わりません。さらに、人の意識とは、結局、電気信号の反応の総体です。五感から入ってくる情報(信号)を経験(蓄積情報)に基づいて判断している、そのすべてが電気信号の反応から成り立っていると考えれば、AIは人の「意識」の構造と変わりはないと考えることもできます。おそらく、技術的に、将来、「弱いAI」でも、人のように振る舞うことは可能になるでしょう。むしろ、人らしさとはミスをすることだと考えれば、それはAIにとってはバグですが、それもプログラムに組み込むことは可能です。しかし、そんなことをする必要があるでしょうか。ミスをしないAIによる自動運転の車は、ミスをする人による運転よりも、はるかに事故を起こさないことに意味があります。これはなにも判断や学習といった論理的と認識される分野に限ったことではなく、芸術のような感性として分類される分野でも同様です。AIが作曲・演奏する音楽や描く絵画に感動したいかどうかは別として。

 人のような振る舞いをするといってもこれは、哲学者のジョン・サールが提唱する「強いAI」とはまるで異なるものです。人間の意識をシステムとして考えると、「より多くの多様性を包摂して、一にして機能する統合的システム」、「外乱を前提とした正のフィードバックを容認する開放系システム」となり、現状において、これをアルゴリズムとして捉えること非常に難しいと考えられるからです。つまり、AIは意識をもって人間的になるのではなく、思考の領域で人間を超えるところに向かっているのです。むしろ、人がAIとの共生を考えなくてはならない社会が近づいていると思います。しばらくの間は、人間は目的設定を担当し、「弱いAI」は、その目的領域において、目的達成のための最適なアプローチを探索し、実行することを担当するのではないでしょうか。デジタルテクノロジーの進歩は、加速的であり、四半世紀後のことを想定するのは無理があるかもしれません。

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