
2023.02.03
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
今後、AIによって人の仕事が減っていくのは確実だと思います。すでに自動運転の車は実用化が近づいていますし、通販会社の倉庫ではAIを搭載した物流ロボットが稼働しています。サムライ業といわれる専門職も、医療の初期診断なども、膨大なデータを素早く照合できるAIの方が有利です。ホスピタリティの分野は人でなければできないという議論もありますが、それも、そこに「人でなければ」という価値観をもっている一定年齢以上の日本人の幻想といえるのではないかと思います。
もっと本質的なところに目を向けると、人とは、地球上の生物の中で唯一、自分たちに都合の良いように環境を変えてきた生き物です。人以外の生き物は、環境に適応することで生きてきました。人類だけが、土地を耕し、道路を造り、工場を建て、エネルギーを興し、環境を変えて生きてきたのです。ところが、AIに代表されるデジタルテクノロジーの進歩は、それはもともと人が創り出したものなのですが、ネットワークやIoTを創り出したことで、機械同士が自律的に進歩する環境を生み出しました。つまり、人が介在する必要がない環境です。すると、環境を創り変えて生きてきた人類は、今度は自らが創ったその環境に適応しなくては生きていけない状況になってきたのです。もちろん、こうした考え方には異論もあるし、アーミッシュに代表されるような近代文明を極力拒否する生き方もあるでしょう(そのアーミッシュも、テクノロジーを拒否しているのはなく、その受容の速度が遅いだけであり、基本的にはアメリカというテクノロジー社会に依存しています)。しかし、多くの人にとっては、どうAIと生きていくか、が現実的な問題になるのは間違いありません。ホスピタリティは人の領域だとか、近代文明を拒否する生き方などというのは、「逃げ」になってしまい、生産的ではないと思います。
AIとともに生きる、働くというと、いまは違和感をもつ人が多いかもしれません。しかし、AIと共生することは、人の能力を上げることにもつながります。例えば、AIには勝てなくなったチェスですが、現グランドマスターのマグナス・カールセンのレーティングポイント(チェスの強さを表わすポイント)は非常に高く、AIに最も近いプレーヤーといわれています。彼はAIと対戦を繰り返し、実力を高めてきたのです。将棋界でも、若手棋士などはAIの指し手を研究しているといいます。むしろ、AIを忌避することは、自分の進歩を止めてしまうことになるのです。