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2023.10.11

オリンピックと都市の変容——ロンドン、東京、パリの計画から——

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都市再生とオリンピック招致

 もともと私は、フランスを主なフィールドとして都市計画事業を研究対象にしてきました。都市の景観が変化するとき、どのような思想的背景があり、いかなるプロセスでそれが行われるのか、人文地理学的観点から研究しています。

 そんななか、2014年にイギリスのロンドンへ一年間滞在する機会があり、その時にクイーン・エリザベス・オリンピック・パークを訪れました。2012年ロンドン大会の会場跡地を活用した公園兼複合スポーツ施設です。

 私が驚いたのは、まずその巨大さでした。日本も2002年にサッカーワールドカップという巨大イベントを韓国と共催していましたが、オリンピックを開催するということは、そのようなスポーツイベントとは全く異なる規模の施設が必要であるのだと痛感しました。

 この体験が、オリンピックと都市計画に関する研究のベースになりました。2013年9月に2020年大会の東京開催が決まっており、その後、2024年大会の開催地にパリが選ばれるなか、私はこの3都市の比較を中心に研究を進めました。

 オリンピックや国際博覧会(万博)の様な国際的イベントを「メガイベント」と総称しますが、それらは単に経済的に巨額のイベントであるだけでなく、インフラ整備などの様々な関連政策を促進させる性格を持ちます。ゆえに、都市を大きく変える手がかりとして用いられます。

 また、開催が決まると同時に実施までの期限が切られます。この時間的な制限が、市場に任せていては動かしづらい計画や政策を動かしていくことから、政策担当者にとってイベント招致の動機になりえます。

 しかも、イベントに付随するもの、せいぜい間接的にしか関係のないものも含めて、極めて広範囲に物事を巻き込みます。会場の開発では、住民の立ち退きが行われ、人々がそこでの仕事を失ってしまうといったことが毎回起きています。

 これらの特性を踏まえて都市の開発を見たとき、ロンドン、東京、パリの3都市に共通しているのは、都市を脱工業化に合わせて作り替えることと、オリンピック関連の開発が並行していたことです。

 1970年代以降、欧米諸国では企業が生産拠点を移転することにより、都市やその周辺部では広大な工業地帯が使用されない状態で残されました。80年代まで製造業が比較的維持された東京もやはり90年代に入ると脱工業化時代を迎えます。

 そして、そこで求められる再開発は、都市としての連続性よりも、グローバル資本を引きつけるインフラ(オフィスビルや住宅を含む)の整備でした。

 ロンドンは、2012年大会のために、イースト・ロンドンと呼ばれる元工業地帯をオリンピック会場に造り変えました。その地域の大半はイングランドで最も貧しい地区の上位10位に入っていましたが、現在のオリンピック・パークからはその姿を思い浮かべるのは困難です。選手村や仮設の競技施設の跡地は、中間層向けの新たな住宅街になり、歴史的な痕跡はほとんどありません。

 パリでは、北の郊外が再開発の舞台になっています。1998年のサッカーワールドカップのために建設されたスタッド・ド・フランスをメイン会場とし、周辺を再開発する「グラン・パリ」政策を継続しています。それはやはり元工業地帯であり、脱工業化による失業や貧困に特徴づけられてきた地域です。

 東京もまた、多くの競技施設が設置された湾岸地域はかつて倉庫や公営住宅が収集していましたが、90年代後半から存在する官民一体の都市再生計画によって、タワーマンションが立ち並ぶ再開発地域となっています。

 これら再整備の対象の多くが都市中心から半径10キロメートル程度であることも、3都市で共通しています。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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