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「タイ的自由主義」がわかると、日本人もタイ人が好きになる

タンシリトンチャイ ウィライラック タンシリトンチャイ ウィライラック 明治大学 国際連携機構 特任准教授

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RCEP(東アジア地域包括的経済連携)の発効にともなって、あらためて、アセアンに対する関心が高まっています。特に、メコン地域の中心的存在であるタイとの交流は、今後、ますます盛んになると言われています。一方で、私たちはタイのことをどれだけ知っているのでしょう。

「タイ」とは自由を意味する言葉

タンシリトンチャイ ウィライラック 一般的に使われているタイの名称は、「プラテート・タイ」と言い、日本語に訳すと「タイ国」となります。タイは、第2次世界大戦前の1932年からの立憲君主制国家なのです。

 では、国名になっている「タイ」の意味をご存じでしょうか。

 以前は、タイは「シャム」と呼ばれていたと思っている人もいると思いますが、これは、タイ人ではなく、外国人がこの地域を呼ぶ言い方だったのです。長い間知られていた「シャム」は1939年にタイ人が自称する現在の正式な国名「タイ」に変わったのですが、実は、もともと「タイ」には、「自由」という意味があるのです。

 このことを知っていると、タイ人の考え方、生活、習慣、行動パターンがわかってきます。

 例えば、タイ人は、基本的に、束縛とか拘束を嫌います。自分のことは自分で決めたいのです。つまり、自由にしたいのです。

 というと、とても利己的な個人主義のように思えますが、一方で、タイ人はとても人づきあいが良く、協調性も大切にしますし、謙虚でもあります。つまり、他人を尊重して束縛しないし、自分自身もされたくない、という傾向です。

 これは、タイ・スタイルの個人主義とか、タイ的自由主義と言われます。

 こうしたタイ人の考え方を象徴するもののひとつが「マイペンライ」という精神です。

 これは、様々な場面で使われます。例えば、だれかが問題を起こしたとき、「マイペンライ」と言うと、「問題ない」とか、「大丈夫」、「どうってことない」、「気にしないで」という意味になります。

 逆に、自分自身に対して言うこともあります。そのときは、「しょうがない」、「なんとかなる」というような意味です。

 この「マイペンライ」は、日本人にはなかなか理解しづらいと思います。

 例えば、日本人がタイでなんらかの問題に遭遇したとき、相手があっけらかんと「マイペンライ」などと言うと、なに言っているのだと思うでしょう。特に、最近の日本人は自己責任を追及する傾向があります。簡単に「しょうがない」、「大丈夫」などと言われたら、怒り出すかもしれません。

 でも、「マイペンライ」には、問題が起きたその状況に囚われずに、それより先のことを考えようという前向きな考え方があるのです。つまり、問題に対して自由に、柔軟に対応しようということです。

 だから、なにかをしようとするとき、日本人は時間をかけて入念に計画を立ててから始めるが、タイ人はまずやってみて、ダメだったら、そこで臨機応変に対応する、と言われます。

 もちろん、じっくり考えて実行することで物事は上手くいくと思いますが、素早く実行することが求められる場合もあります。

 そんなときは、計画や約束ごとに囚われるのではなく、その場その場で、問題に対処し、解決するスキルが求められます。それも、「タイ」という自由が培ったスキルのひとつなのです。

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