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ヨーロッパ型多拠点居住は私たちにとっても魅力的

飯嶋 曜子 飯嶋 曜子 明治大学 政治経済学部 准教授

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近年、多拠点居住への関心が高まっています。居住場所を複数もつことで自分の生活を豊かにしようというライフスタイルです。一方で、ヨーロッパでは、この動きが過疎地域の活性化に繋がり、地域政策に取り入れられるケースもあります。日本も学ぶことができるかもしれません。

地方の消滅は都会で暮らす人にとっても大きな問題

 少子高齢化の進行と、地方から都会への人口流出、それにともなう地方の過疎化と拡大する地域間格差の問題は、日本社会だけが直面している問題ではなく、ヨーロッパでも大きな問題になっています。

 日本では、特に農山村地域において過疎化と高齢化により共同生活の維持が困難となる限界集落の問題が指摘されて久しく、また近年は消滅可能性都市の議論も注目されました。

 こうした議論を背景に、周縁部に点在する住民に一定の中心地区に移住・集住してもらい、都市機能やインフラを集約させるコンパクトシティ構想も一層注目を浴びるようになっています。確かに、経済効率性から考えれば、こうした施策は有効でしょう。

 一方で、それが「農山村や周縁部の切り捨て」につながりかねない場合、それによって失うものの大きさにも目を向ける必要があります。

 農業生産機能の重要性は、食糧安全保障の観点からも言うまでもありません。しかし、農家や農山村が担ってきた役割は農作物に関わることだけではありません。その地域に暮らす人々が、植林や間伐などをはじめ、土地の手入れを丁寧に行ってきたからこそ、美しい山林や自然環境が維持されてきたのです。それが失われることによって、山崩れなどの災害が増え、ひいては国土の荒廃に繋がっていきます。

 例えば、都会に暮らす人たちも、四季折々の自然に触れたくて、山や川や海に出かけることはないでしょうか。

 そこで目にする桜や青葉、紅葉、肌で感じる草原の爽やかな風や川のせせらぎ、潮騒の音、そうした日本の美しい自然環境は、自然に任せたままの景色ではなく、人が手を入れることによって維持されてきたものでもあるのです。

 つまり、農山村の軽視や切り捨てによって、私たちは豊かな自然環境や国土の保全を失うことにもなりかねないのです。それは、普段、都会で暮らすことによって得られていると思っている、安全性や豊かな生活を失わせることにもなるのではないでしょうか。

 要は、地方を維持していくことは、地方の問題というだけでなく、私たちみんなにとっての問題でもあるのです。

 では、ヨーロッパでは、この問題とどう向き合っているのか。ヨーロッパの多くの国では既に長い間、様々な取り組みが行われてきました。そしてEU全体としても、30年くらい前から、農村地域の人口維持を重要な政策課題とした施策が実施されてきています。

 もちろん、その取り組みの中には上手くいっているケースもあれば、失敗しているものも多くあります。その違いとは、突き詰めれば、農村地域の持続可能な発展に繋がる施策なのか、ということだと思います。

 例えば、単発のプロジェクトに取り組めば補助金を出す、という施策では、各自治体は補助金申請のために一応は取り組むものの、補助金が終われば、その活動も休止してしまうことが多いのです。これは、日本でも同じようなことが起きているのではないでしょうか。

 では、どのような施策が持続可能な発展に繋がっているのかを調査していくと、注目する2点が挙げられます。ひとつは「多拠点居住」を促す農村整備であり、もうひとつが「ローカルなスケールでのボトムアップ型の農村振興」です。

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