
2022.07.06
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
日本で議論されているコンパクトシティ構想のようなものは、ヨーロッパでも議論されています。しかし、それは必ずしも周縁部の切り捨てとセットになったものではありません。
むしろ、チロルのような山岳地域の辺鄙なところにわずかな住民しかいなくても、道路や上下水道を整備し、バスなどの公共交通機関もできるだけ維持するように努めます。そこで暮らす住民がいる以上、インフラ整備のために公的な資金を投入することは必要不可欠である、という考え方が根底にあるのです。
自治体は、それによって関係人口が広がることを目論んでいたわけではありません。しかし、地域住民にとって住みやすい町は、外部の人たちにとっても住みやすい町になるのです。
そして、行政だけではなく、ローカルな多様な地域の関係者が協力し、ボトムアップ型の農村振興が進められることによって、持続可能な発展に繋がっていくのだと思います。
もちろん、社会制度や環境が異なる日本で、ヨーロッパのやり方がそのまま有効なわけではありません。
例えば、オーストリアは、そもそも連邦制国家で地方の権限が非常に強いのです。そのため、EUや国の政策方針を、地域の実情に合わせた施策に具体化し、実施していくことができます。
その意味では、日本も地方分権をさらに強化し、地方の実情に応じた独自の施策を行える制度を進めることも必要かもしれません。
また、多拠点居住を楽しむことで地方との関わりをもつライフスタイルは、日本でもひとつのヒントになると思います。
実際、若い世代には、こうしたライフスタイルに高い関心を持つ人も少なくありません。自治体がそういった若い世代の芽を育てていくことはひとつの方法です。
その意味では、「空き家バンク」などは面白い取り組みです。地域住民とコンセンサスをとりながら、そうした取り組みを進めていくことは有効だと思います。
自分が気に入った町、選択した町に住んでみることで、そこに愛着も生まれ、その気持ちが地域の活性化や、ひいては国土の保全にも繋がっていくはずです。都会で暮らす皆さんも、自分の生活を豊かにするひとつの形として多拠点居住の可能性を考えてみてはいかがでしょうか。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。