明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

EUの歴史を消滅させかねない、イギリスの離脱

明治大学 政治経済学部 准教授  川嶋 周一

イギリスが国民投票によってEU離脱を選択し、メイ新首相によって、これから離脱交渉が始まります。それによって日本とイギリスの今後の関係が変わってくるので、関心をもっている人は多いと思います。しかし、目の前のことばかりに気を取られていると、大事なことを見失う恐れがあります。あらためてEUの歴史から振り返ってみると、ことの本質が見えてくるのではないでしょうか。

第2次世界大戦で犯した罪の反省から始まったEU

川嶋 周一 EU(欧州連合)には単一市場をつくる経済連合という側面ばかりではなく、もう二度とヨーロッパで戦争を起こさないという強い理念があります。それは、第2次世界大戦の強烈な体験から生まれたものです。この大戦で、ヨーロッパでは兵士だけで1千万人、民間人を含めると3千万人近い人が亡くなったといわれています。そればかりではありません。ドイツではユダヤ人を対象とする大虐殺(ホロコースト)がありました。近代と呼ばれる時代が始まって以降、ヨーロッパは世界の中心であり、最先端の文化を誇り、他の地域の人たちに対して優れた存在であるという意識をもっていました。ところが、第2次世界大戦で自分たちが犯した罪はあまりにも酷いものでした。この思いはドイツだけでなく、ヨーロッパ各国において共有する感情となり、この慚愧の念と、贖罪の思いがヨーロッパを統合しようという強い意思になっていったと思います。国と国とは仲良くできないもの、国家間の戦争は避けられないものという考え方が国際政治の基本であるのならば、その基本に挑戦し、ヨーロッパを統合し国家間の戦争を避けることを実現しようとしたのがEUなのです。

 もちろん、ことはそう簡単ではありません。EUを設立するまでには非常に長い時間をかかり、様々な迂回もありました。終戦7年後の1952年に設立された欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が第一歩となったものの、最初から政治の統合を実現するのは難しく、経済面を先行させようと、1958年に欧州経済共同体(EEC)が設立され、これら共同体を統合する形で、1967年に欧州共同体(EC)が誕生しました。単一市場の構築を進めるとともに政治的統合を目指し、1993年にようやく欧州連合(EU)を発足させました。半世紀近くをかけた、国際的な国家間の関係の常識を覆す積み重ねが、EUの歴史でもあるのです。

国際の関連記事

移民を引き寄せるアメリカの魅力が、日本にはあるか

2020.6.3

移民を引き寄せるアメリカの魅力が、日本にはあるか

  • 明治大学 政治経済学部 専任講師
  • 下斗米 秀之
歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

2020.4.1

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

  • 明治大学 理工学部 教授
  • 林 ひふみ
日本企業のアジア進出は、日本人のあり方を見直すきっかけになる

2019.9.11

日本企業のアジア進出は、日本人のあり方を見直すきっかけになる

  • 明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 准教授
  • 藤岡 資正

Meiji.netとは

Meiji.net英語版

特別授業

新着記事

2020.07.08

ブランド価値の向上が日本企業の課題

2020.07.01

「経営を見える化」する力が「ビジネス」を変える

2020.06.24

子どもの権利を見落とす/教師の権利も見落とされる「ブラック」な学校

2020.06.17

インテリジェンス研究:安全と権利自由の「両立」をいかにして実現するか

2020.06.10

書店が本の価格を決めたら、本はもっと売れる!?

人気記事ランキング

1

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

2

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

3

2020.07.08

ブランド価値の向上が日本企業の課題

4

2017.10.18

ゲーテッド・コミュニティの実態に迫り、その“可能性”を探る

5

2017.06.14

現代の経済学では説明できない!? 縄文時代の持続可能性社会

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム