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EUの歴史を消滅させかねない、イギリスの離脱

明治大学 政治経済学部 准教授  川嶋 周一

フランスにも不安定要素があり、離脱交渉が難しいのはEU側

川嶋 周一 第2次世界大戦の反省から始まったEUは、間違いなく良いものです。しかし、すべての人が良いと思っているわけではありません。EUの良さはその理念にありますが、多くの人にとっては理念よりも、「EUによって自分が得をするならあってもよいもの」です。それが今回、「EUは良くないのだ」、「何の役にも立たないのだ」と、イギリスが判断したということは、EUの理念そのものが間違っていると捉えられ、その存在理由に対する大きな打撃となりかねません。それに、日本から見ると、ヨーロッパの国々はどれも歴史と文化があり、経済的にも豊かだと思いがちですが、イギリス、フランス、ドイツを除けば経済的にも地理的にも小さな国々なのです。小国が独力でできることは限られています。しかし、良くも悪くも国境線が入り乱れる歴史をたどってきたヨーロッパは、共有の文化圏を創り上げてきました。だからこそ、ひとつになることが可能であり、ひとつになることによって一国では得られなかった利益を得ることができるという考え方が、理念とは別にありました。それがいま、イギリスの離脱によって危機にさらされているのです。

 これからイギリスとEUの離脱交渉が始まります。日本では、離脱を選択したイギリスがいばらの道を歩むことになると思われがちですが、むしろ、舵取りが難しいのはEUの方だと思います。ドイツのメルケル首相は、イギリスの「いいとこ取りは許されない」と言っていますが、イギリスとの関係が悪化するような厳しい条件を突きつけると、EU各国内にある反EU感情をさらに掻き立てることになりかねないからです。

 フランスには1972年に創設され、1980年代から本格的に活動を開始した国民戦線という党があります。当初、移民排斥や反EUを掲げる極右の党の主張は、フランス革命以来「自由 平等 博愛」の理念をもち、また第2次世界大戦の記憶が強く残るフランスの人々にとって色物のような存在で、相手にされませんでした。ところが、2002年の大統領選挙で、既存政党に対する批判票などを集め、党首のジャン・マリー・ル・ペンが上位2名の決選投票に残り、世界中を驚愕させました。現在は、娘のマリーヌ・ル・ペンが党首に就き、さらに広範な支持者を獲得し始めています。来年行われる大統領選挙では、「善戦する」から、「もしかすれば勝つのではないか」とさえ言われています。2017年はイギリスのEU離脱交渉と、このフランス大統領選挙が並行して進むことになります。EUがイギリスとの離脱交渉を誤れば、フランス大統領選挙の結果とあいまって、EUはさらに極めて危機的な状況に陥ることになりかねないのです。

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