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EUの歴史を消滅させかねない、イギリスの離脱

明治大学 政治経済学部 准教授  川嶋 周一

歴史に根ざす感情が違っていたEUとイギリス

 その間、イギリスは大陸ヨーロッパと一線を画し、独自路線を歩んでいました。しかし、脱植民地化に直面したことなどにより経済不振に陥り、ついに1960年代の初めにはEECに加盟を申請します。が、フランスの反対にあって認められず、1973年にようやくECへの加盟が認められました。イギリスの加盟理由は、自国の国力を維持するという思惑が強く、経済的な理由によるものです。第2次世界大戦でヨーロッパが犯した罪から逃れていたイギリスにとっては、なぜ大陸ヨーロッパの罪滅ぼしのプロジェクトに参加しなければならないのか、という感情があっても不思議ではありません。結局、イギリスと大陸ヨーロッパの歴史的な感情に根ざす違いが、その後、イギリスのEUに対する関係に棹を差し続けることになります。

 今回、イギリスの国民がEU離脱を選択した理由には、イギリス社会における格差の拡大があると思います。EUに限らずグローバル化が進んでいる現代では、各国で国内の経済的格差が進んでおり、経済的弱者の立場に取り残されていく人たちの数は少なくなく、その人たちは少数派の裕福な層に対する反発や不満を強めています。イギリスではEUによって得をした人たちが裕福なエリート層になっていくため、EUが裕福な層のある種のシンボルとなってしまい、反発や不満がEUに向けられることになったわけです。例えば、フランス語やドイツ語などもしゃべれる高学歴の人たちは、域内で自由に移動しビジネスができるEUのシステムによって、エネルギッシュに活動ができます。それに反して、英語しかしゃべれないためにイギリスから出てビジネスをすることもできない低学歴層はEUの恩恵にあずかれず、経済的格差は開いていくばかりです。実際、EU残留派は都市部に住んでいる経済的に余裕のある若い人たちが中心で、離脱派はどちらかというと地方に住んでいて、経済的に恵まれていない労働者階級の人たちが中心でした。

 さらに、ギリシャ危機で現われたように、EUの経済政策が上手く機能していないことや、難民に対するEUの政策が定まらないことなど、もともとイギリスがEUに対して抱いていた不満や不信感が募ったことも大きな要因となりました。しかし、EUの観点から見れば、イギリスのEU離脱は、第2次世界大戦後のヨーロッパと、ヨーロッパとつながっている世界全体の歴史の積み重ねを消滅させかねない、非常に大きな事件であるといえるのです。

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