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“アメリカの危機感”がトランプを大統領にした

井田 正道 井田 正道 明治大学 政治経済学部 教授

2016年のアメリカ大統領選挙で、事前の世論調査ではクリントン氏が有利といわれていましたが、結果はトランプ氏が勝ちました。この“トランプ現象”を細かく検証していくと、現在のアメリカ社会の実状が見えてきます。

アメリカ南部で実感する社会の急速な変貌

井田 正道 2012年から2年間、私はアメリカ南部で生活しました。その間、アメリカ社会の急速な変貌を目の当たりにしました。2016年のアメリカ大統領選挙の結果に、日本を含めた世界各国が驚きましたが、トランプ政権の誕生を2016年という点で捉えるのではなく、このアメリカ社会の変貌の延長線上で捉えると、その背景にあるものが見えてきます。

 確かに、アメリカ国内にも、いわゆる暴言を繰り返すトランプ氏がなぜこれほど支持されるのか、違和感をもっている人が多くいます。そうした人たちが多いのは、ワシントンやニューヨーク、ロサンゼルスなどで、反トランプの動きが大きいことを伝える日本のメディアの支局などがある地域と同じです。実は、これらの地域はもともと民主党が強いところで、リベラルな価値観、ダイバーシティ(多様性)を肯定的に捉える傾向が強い地域です。しかし、私が暮らしたのは、この数十年間にわたって共和党が強い南部地域のひとつで、ここでは、リベラルやダイバーシティに対して、非常に批判的な感覚が強い地域です。その要因のひとつは、ヒスパニック系の人たちが都市部などで急速に増えているという現実です。私が暮らしていたアパートでも、朝、最初に耳にする言葉はスペイン語でした。掃除をしている女性たちがヒスパニックだったのです。あいさつを交わしているうちに私の妻がよく会話を交わすようになり、雑談のなかで「なぜアメリカに来たの?」と尋ねたところ、ひとこと“money”という答えが返ってきたそうです。故郷のエルサルバドルでは、朝から夜まで働いても7ドルにしかならない、と。要するに、アメリカの方が収入がはるかに良いから、より良い暮らしを求めて移住してきたのです。こうした移民が急速に増えたため、市内のバスの案内表示などには英語とスペイン語が併記され、携帯電話の登録手続きやソーシャルセキュリティナンバー取得などの諸手続もスペイン語で行えるようになっています。

 ヒスパニック系がとりわけ多いフロリダ州などでは、店員もヒスパニック系の人が多いので、英語が喋れなくても買い物に困らず、生活できるという話も学生から聞きました。実際、フロリダにも行きましたが、スーパーでの表記が英語とスペイン語の併記になっていました。政治的な対応以前に、すでに社会は、増大する移民に対応するようになっているのです。人口統計をみても、人種的多様化傾向は明らかで、とりわけ2000年以降に急速に進みました。アメリカの国勢調査によると、2000年から2010年の間に、アメリカ全体でいわゆるマイノリティの人口は28.8%も増えており、南部地域でみると、33.6%もの増加になっています。こうした移民、とりわけ不法移民の増加によって白人の職が奪われるために、反移民政策を掲げるトランプ氏への支持が高まったという指摘があります。確かに、そうしたこともあるでしょう。しかし、移民の増大によって、もともとの住民である白人たちが抱く危機感は、別のところにもあるのです。

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