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“アメリカの危機感”がトランプを大統領にした

井田 正道 井田 正道 明治大学 政治経済学部 教授

大統領選挙に影響を与えた共和党の強い危機感

井田 正道 移民の増加は、共和党にも強い危機感をもたらしました。ここ10年間くらい、アメリカ社会全体の流れは、大まかにみればリベラルの方向、ダイバーシティの方向に動いたと思います。そこに、オバマ大統領の8年間があり、医療保険政策におけるオバマケアの導入や、同性婚が連邦レベルで合法とされました。また、小さな政府を標榜する共和党にとって反共和党的な政策である、いわゆるオバマ・ケアが可決されるなど、共和党はじり貧になっていく危機感をかなりもっていたのです。そこに、増大する移民です。ヒスパニック系の人口増加は、ヒスパニック系の有権者数の増加を意味します。1988年には770万人だったヒスパニックの有権者数は、2012年には2330万人と、およそ3倍に膨れ上がったのです。そして、ヒスパニックの政治意識は民主党寄りなのです。人種的多様化の進行という流れからすると、共和党はこのままでは、構造的にどんどん弱くなっていく恐れがあるのです。共和党は相当に強い危機感を抱いたことでしょう。しかし、この危機感が投票行動に反映されていくことになったと、私は思います。50%を超える支持率があったオバマ氏が、なぜ2012年の大統領選挙で、あれほどの接戦になったのか。それは、危機感の強い共和党は投票に積極的になったからだと考えられます。世論調査にオバマ氏支持と答えていても、その人が実際に投票に行くかどうかはわかりません。しかし、危機感の強い共和党支持者たちは、棄権することなく投票所に行く傾向があります。私は2012年選挙の時にノースカロライナ州にいましたが、選挙民は民主党支持者の方が共和党支持者よりも多いにもかかわらず、共和党のロムニー候補が選挙人を獲得しました。この傾向は2016年の大統領選にもつながっていきました。このことが、クリントン氏有利と見なしていた世論調査が外れた一因なのではないかと、私は思っています。

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