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「カワイイ」ファッションはフランスでも人気?

高馬 京子 高馬 京子 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授

以前から、日本のマンガやアニメは国際的に評価されていますが、最近では、日本発の「カワイイ(kawaii)」ファッションも海外で流行していると、日本のメディアでもよくいわれています。クールジャパン戦略でも注目する動きでしたが、日本の「カワイイ」ファッションは実際、「kawaii」という借用語がメディアでも使われるフランスにおいて、メインストリームとして認知されているのでしょうか。

デジタルメディアによって変わったファッションの形成と伝達

高馬 京子 私は、日仏メディアにおけるファッションの形成と伝達について研究しています。その視点から見ると、近年のインターネットやスマートフォン、SNSの発達など、デジタルメディアの変容にともなって、ファッション(服飾流行)の形成や伝達の仕方が大きく変わってきていることがわかります。まず、「ファッションの形成、伝達者の多様化」です。日本では、戦後から1960年代くらいまで、フランスのオートクチュール(高級仕立服)デザイナーが発信するファッションスタイルをマスメディアを通して知るのが一般的でした。ファッション情報を発信できるのはマスメディアと、それを利用できる企業に限られており、そのファッションスタイルにみんなが憧れ、真似ようとしていました。その一方でそういったマスメディアが発信するファッションではなく、ストリートから生まれるストリートファッションもありました。しかし、1970年代以降、プレタポルテ(高級既製服)が登場し、ファッションは多様化しますが、マスメディアがファッション情報を形成・発信し、それを個人が受け取るという情報の流れが大きく変わることはありませんでした。しかし、デジタルメディアが急激に発達した2000年代以降になると、個人がデジタルメディアを通して自らのファッションを発信できるようになり、マスメディアではないメディアを通して局所的な流行が複数生まれるという現象が、ストリートからファッションが発信されるとき以上に起きるようになりました。最近では、SNSをコミュニケーションツールとしファッションを提案するデザイナーも出現したり、大手ファッションブランドも、個人がSNSに発信したファッションからインスピレーションを受けたデザインを発表したり、また、大手ファッション雑誌でも、インスタグラムといったSNSなどで挙げられたファッションを「デジタルファッション」として紹介する傾向も見られ、現代のファッション文化は重層的に形成されているといえます。

 あらためて、ファッションとは何かと考えたとき、自分のアイデンティティを形成する手段という側面があると思います。アイデンティティを形成するには他者が必要です。デジタルメディア以前/以後ではその他者が変化したように思います。以前は到達できない憧れの他者をお手本としていたのが、デジタルメディアの発達した今日では、自分が変身したり、画像修正したりして、自分自身が日常の自分とは異なる憧れの他者そのものになることができるようになったといえるでしょう。そうした自分を、それまで存在しなかった「ここ」にいない不特定多数の他者に見せ、自分にとっての理想の姿として承認されることが可能になっていきます。このようにファッション追従を通してのアイデンティティの形成もメディアの変化とともに変わってきました。戦後、世界的流行となったクリスチャン・ディオールのニュールックというロングスカートの着方を、「パリジェンヌ」をお手本として手ほどきする記事が紹介され、現在も尚、日本のファッション雑誌では欧米のファッションのモデルも多く見られますが、その場合、日本人にとっては手の届かない憧れの存在でした。それでも、ファッションを真似ることでその憧れを目指し、近づこうとしたわけです。それは、ある種の自己実現欲望といえます。しかし、日本の特有ともみられる読者モデルの多用、またデジタルメディアの発達によってファッション情報が多様化し、憧れの存在も身近になり、技術的な自己実現手段の発展に伴い、その自己実現欲望もどんどん広がっているように思えます。

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