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「カワイイ」ファッションはフランスでも人気?

明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授 高馬 京子

一部のフランスの若者にウケた「カワイイ」ファッション

 デジタルメディアの発達は一方で、発信者が思ってもいなかった情報の拡散を起こし、トランスナショナル(国境を越えた)ファッションの形成につながるものの、そこに異文化間理解におけるずれを起こすこともあります。その一例が、日本の「カワイイ(kawaii)」ファッションです。日本では1970年代から80年代にかけて、少女たちが様々なシーンで「カワイイ」を使うようになりました。「かわいい」のもともとの意味は時代によって大きく変遷し、上下の人間関係は関係なく個人が距離感を近く感じられる対象などに対する、自分の感情を現わす言葉へと変化していきました。日本のメディアでは、特に2006年以降ぐらいから、世界で人気の原宿ストリートファッションといったファッションをカワイイ(kawaii)ファッションとし、「世界を席巻するカワイイ」といわれるようになります。それに対して、1998年にフランスのある新聞ではじめて「カワイイ」ファッションが紹介されたときの記事をみてみると、「原宿のちょっとバカっぽいファッション」と、また、2014年の同新聞においても、原宿ストリートファッションを19世紀のJaponaiserie(ジャポネズリー:日本趣味)とかけて「Japoniaiserie(ジャポニエズリー:日本ののろま)」という表現で紹介され、ヨーロッパでは絶対に着用されないと指摘されています。もともとフランスには「風刺」というユーモアを含んだ批判精神が強くあります。しかし、4日間で、「kawaii」ファッションに身を包む人も多く集う、20万人以上の日本ファンを集客するパリの日本文化の祭典「ジャパン・エクスポ」にみられる評価、一部のファンであるフランス人若者と、このフランス新聞による風刺的に形成された世論との間では温度差がみられます。2011年、若者向けの『ルック事典』に「kawaii」スタイルが大きく取上げられた時も、「日本文化ファン、マンガファンによって夢を抱いたkawaiiの世界、子供の世界」とかなり限定された人、子供を対象としたファッションとして紹介されています。このようにマスメディアがファッションとしては肯定的に発信せず、批判的、かつ風刺的に捉えられがちなファッションではあっても、若者たちはデジタルメディアを通して、日本の若者たちが発信するファッションを直接知り、注目したことで、またそれをその本の編集者独自の解釈によって『ルック事典』に掲載されていくという動きがあると考えられます。

 一見、マスメディアによる世論とは別に、デジタルメディアによって、日本のファッションが言語文化を共有しない他者にも伝達されることで、その共有するファッションを通して理解し合えるように思えます。しかし、実はそうとも限らないのではないかと思うのです。むしろ、異なる言語文化背景で解釈、受容、変容されることで、まったく異なる意味となることもあり、それを巡って異文化間での認識のずれが生じる可能性もあります。私がインタビューをした「カワイイ」ファッションを全面的に受入れたかのようなフランスの若者たちも、仕事場に着て行くことはないと言う人がほとんどです。着るのは週末であったり、SNSにその写真を公開したりと、フランスのドレスコード、社会規範とは異なる、非日常的な「カワイイ」ファッションを限定された守られた空間で着用する傾向がみられます。なぜ「カワイイ」ファッションを着るのかとフランスの着用者に意見を聞いてみても、「私が私でいれるファッション」という人が多く、日本語の「かわいい」の元来の意味とは異なる新たな「カワイイ(kawaii)」として理解されています。フランスの研究者、ベロニック・マガリが19世紀のフランスの小説家の他者を語る言説を分析した際に、自分たちとは異なる他者を「占有」し自らの文化を作り、発信していこうとする行為を一種のオリエンタリズム的行為として提示していました。現代のカワイイファッションを身に纏う彼ら若者の間では、そういった他者を占有しようとする、対等な関係ではない「オリエンタリズム」的視線はないと思われます。そんな「カワイイ」ファッションがウケるのは、それがメインストリーム、社会の規範的ファッションにはない変化をもたらすサブカルチャーだからであり、それがメインストリーム、社会の規範的なファッションとしてではないといえます。そして、その一部の若者に支持されている「カワイイ(kawaii)」を「世界を席巻するカワイイ」として、それを日本が「異文化」受容し、日本のかわいいという言葉の定義も変化していくという構図がみられるのです。

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