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トルコのクーデター失敗は“最良のシナリオ”へと続くのか

明治大学 研究・知財戦略機構 特任教授  山内 昌之

最悪のシナリオを回避した市民の力は最良のシナリオの力となるか

山内 昌之 エルドアン大統領は、このクーデターの失敗を、外に対しては民主主義が守られたとアナウンスするでしょうが、実際は「神が与えてくれたギフト」だと思っています。これを機会に反エルドアン派の排除という名目で、自分の権力と権威を高め、その永続性を図ることができるからです。軍部の粛清はすでに始まっています。また、優秀なレベルの国家公務員や大学の学部長、研究者たちの一斉解雇も行われています。その結果トルコは、NATO第2位の有数の軍事力を弱体化させるとともに、優秀な人材や頭脳を流失させ、国力を落とすことは否めません。今回のクーデターを分水嶺にして、マキシマムでいえば民主主義を守るためにみんなが立ち上がったのかもしれませんが、それを一番利用しているのは、非民主主義的な指導で権威主義的な統治を導入し、自分の政権の長期化を図っているエルドアン大統領であり、国力を犠牲にして彼の独裁主義的な統治が始まる怖れがあるのです。

 しかし、逆にクーデターが成功していたら、どうなったでしょう。軍の主流はクーデターに反対していたので、クーデター成功後から軍の分裂、抗争、そして正規軍同士のぶつかり合いによる内戦に発展することは避けられません。そうなれば、中東で最も安定していた国家のトルコが中東5番目の内戦国となり、中東の秩序は根底から覆ることになります。まず、膨大なトルコ難民が出ます。それは、1950年代から太いつながりがあり、トルコ人の共同体も数多くあるドイツを頼ることになります。地理的にも近いトルコの難民を、ドイツやEUが拒みきることはできないでしょう。それは、トルコのみならず、ドイツにとってもEUにとっても、悪夢のような事態です。2015年だけでも約110万人の難民・移民がドイツに流入したといいます。トルコに内乱が起こっていればそれどころではなく、そのインパクトは計り知れません。クーデターの成功が、今回の最悪のシナリオであったと分析されます。

 エルドワン大統領の支持者たちは、カオスの時代が来ることを怖れて戦車の前に立ちはだかりました。その勇気と行動力は、トルコ国内だけでなくEUをもカオスから救ったことになります。今後、彼らの勇気と行動力が、選挙という合法的手段でエルドアン大統領の前に立ちはだかり、トルコの弱体化を救うシナリオとなるか、注目したいと考えています。

明治大学国際総合研究所
北米、ヨーロッパ、中東・イスラム地域ごとに、安全保障、国際貿易、地域紛争、テロ等をテーマとし、分析、研究を行っています。従来の国立大学や他の大学にない試みとして、実際の貿易や様々な経済交渉の経験がある経済産業省出身者、学問、アカデミズムの世界で学術的な論理でものを考えてきた国立大学の研究者、専門分野のマスコミ出身者等を研究員として迎え、多角的な視点から研究会を行い、年に数回のシンポジウムやセミナーをはじめ、様々なメディアに分析、研究結果の情報発信を行っています。
http://www.meiji.ac.jp/miga/

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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