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超過勤務をめぐる二つの訴訟

 過酷な労働環境をめぐっては、司法の場でも争われています。その一つが、埼玉県の公立小学校教諭田中まさお(仮名)さんによる訴訟です。ここでは、超過勤務に対し、時間外勤務手当の支払い、もしくは国家賠償法に基づく賠償が請求されました。

 しかし、現時点(2023年1月)では、一審、二審とも原告の訴えは退けられています。裁判では、超過勤務の多くは校長命令ではなく、教員が自発的に行ったものだという被告側の主張が大筋で認められたわけです。

 ただし、いくつかの点で前進もありました。一つは、超勤4項目以外でも校長命令によって法定労働時間を超えた時間外労働が生じていたことが認められた点であり、もう一つは、そのような超勤が国家賠償法上の賠償対象となると確認された点です。

 とはいえ、残念ながら二審までは、それに該当する超勤時間がわずかであるとして、実際には賠償は認められませんでした。

 原告側からは、授業1時間あたりの準備時間を5分しか認めないといった裁判所の算定基準に不満が述べられ、現在最高裁で審議されています。

 一方、大阪でも教員の長時間労働をめぐる訴訟がありました。原告である大阪府立高校の西本武史さんは過重な業務によって適応障害を発症し、2度にわたり休職せざるを得なくなったことに対して賠償を求めました。

 これに対し、大阪地裁は訴えを全面的に認め、大阪府に賠償命令を出しました。

 実は、この裁判においても、大阪府は、西本先生に過重な業務を命じたわけではなく、彼が自主的に行っていたのだと主張していました。しかし、裁判所は、健康障害に至ったことを重く見て、校長の管理責任を認めたわけです。

 一方で損害賠償が認められたのに、他方ではそうならない。この差をどう考えればよいのでしょうか。

 埼玉の裁判では、超過勤務自体への賠償を求めたのに対し、大阪の裁判では、超過勤務による健康被害への賠償を請求したという点で二つの裁判に違いはあります。

 しかし、現場教師の目には、二人の教師が担った「残業」の多くは義務的なものであり、両者の仕事に差はないものと映るはずです。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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